いまだによくわからない急性・慢性腎炎の発症のしくみ
腎臓の機能が停止したら、尿中に尿素や窒素化合物がたまり、中毒症状をおこします。尿が1週間もでなければ、生命の維持すらもむずかしくなことから、昔の人は「肝腎かなめ……」ともいい、とても大事な臓器として扱ってきました。この腎臓におこる病気には、症候性と無症候性の2つのタイプがあり、症候性の場合には、むくみや息苦しさ、尿量が少なくなったなどの自覚症状がありますが、無症候性では、職場や学校などでの集団検診などで尿にたんぱくが出ていると指摘されるだけで、外見上、なんの異常もないままに進行します。
主な腎臓の病気には、急性腎炎、慢性腎炎、腎盂炎、腎盂腎炎、ネフローゼ症候群があります。
急性・慢性腎炎は、糸球体が炎症をおこすもので、正確には糸球体腎炎といいます。糸球体腎炎には、急性糸球体腎炎と、慢性糸球体腎炎があり、これらは、
固定期
腎炎期
高血圧期
ネフローゼ型
末期
の5つのタイプに分けることができます。
ネフローゼ症候群とは、単一の病気のことではなく、いろいろな病気の経過中に、尿中にたんぱくが出るたんぱく尿、血液のたんぱくの量が減る低たんぱく血症、血液中の脂質が増える高脂血症などがみられる症候群です。
腎盂炎、腎盂腎炎は、尿の通路である腎盂に炎症がおこります。急性の場合には内科で治療されることが多いのですが、慢性の場合にはなんらかの尿路の病気を伴っていることが多く、泌尿器科的な検査が必要になります。
その他の腎疾患には、妊娠腎、免疫異常腎炎などがあります。
急性腎炎、慢性腎炎がどうしておこるのかについては、くわしい仕組みはわかっていません。しかし、急性の場合には、咽頭や扁桃などに溶連菌のような細菌やウイルスが増殖し、炎症をおこすと、菌の一部が血液のなかに入り、結果、体のなかで菌に対する抗体ができ、免疫複合体ができるというような反応がおきると考えられます。その免疫複合体が血液によって腎臓に運ばれ、これが腎臓の糸球体の網の目にひっかかり、炎症をおこすのではないか、と考えられています。
慢性腎炎もどうしておこるのかについてはよくわかっていません。急性腎炎がいつの間にか発症し、慢性化すると慢性腎炎になるかのように考えがちですが、かならずしもそうではなく、慢性腎炎が急に発症することもあります。また、急性をこじらせた結果、慢性になるわけでもありません。そのために、別の病気と考えるむきもあります。
慢性腎炎も急性腎炎と同様に免疫反応が関係しており、同じ慢性腎炎でも、数年もたたないうちに腎不全におちいる人もいれば、何十年も腎臓の働きが低下しない人や一部には治ってしまう人もいるなど、くわしい病気の仕組みについてはわかっていません。
急性腎炎は大人もかかりますが、子どもに多く、症状は派手でも、たいていは完全に治ってしまいます。慢性腎炎は大人に多く、原因、経過ともにはっきりせず、長期療養が必要になるやっかいな病気です。
また、糖尿病や高血圧、動脈硬化、腎腫瘍、薬剤、外傷、前立腺肥大、結石などによって慢性腎炎をおこすものもあります。
ネフローゼ症候群は、いろいろな腎炎が原因でおこります。最近多くなっている糖尿病性腎症でもおこります。症候群という名のように、大量のたんぱくが尿にもれ、そのために血液中のたんぱくが減少し、強いむくみが生じます。血液中のコレステロールなどの脂質も高くなります。
急性期にはむくみがひどいので、入院が必要になります。症状が安定したら、食事療法を受けるだけでも、むくみはかなりとれます。
子どものネフローゼの場合には、微小変化型ネフローゼが多いので、選択の余地なくステロイド剤を投与します。約90%にはよく効き、数カ月後には尿たんぱくが陰性になります。しかし、投与を打ち切ったり、量を減らすと、その約20%は再発し、また投与を始めることをくりかえします。
大人の場合にも、微小変化型ネフローゼと診断されたら、かならずステロイド治療を行います。それ以外のネフローゼでは、その治療法の有効性については専門家の間でも意見が一致していません。
ムーンフェイス(満月のような丸い顔になる)、食欲亢進、体重増加、ニキビ、高血圧などの副作用があり、長期間服用していると副作用が出てきますが、短い期間ならばほとんどなく、出たとしてもごくわずかです。
副作用対策は、着実に進んでおり、長期に用途しても防ぐこともできるようになってきています。
医師は十分に気をつかいながら投与していきますから、副作用を恐れて自己判断で薬を飲まないことがもっとも困ることで、治療方針の判断に誤りを生じかねません。専門医が必要と判断したときには、十分な説明をうけて理解し、受け入れていくことが治療には必要です。