がん がんの基礎知識とその治療法
人間の体には約60兆個の細胞があります。がんは、その中のたった1個の細胞が突然変異を起こすことから始まります。変異した細胞は増殖しながら腫瘍をつくり、周囲の組織を破壊しながら成長していきます。
健康で正常な細胞では、分裂が起こって2つになると、その一方が死滅しますから、全体の数は一定に保たれます。ところががん細胞は、分裂した後、2つとも生き残り、それぞれがまた分裂。そのため異常な速さで細胞が増殖してしまうのです。
また、正常な細胞には、種類の異なった細胞に接した時点で分裂をやめるというルールがありますが、がん細胞はそんなルールもおかまいなし。次々と増殖を続け、周囲の正常な組織に侵入(浸潤)します。さらに、がん細胞はバラバラになりやすいので、血管やリンパ管を通って他の臓器や組織に移動、そこでまた分裂。これががんの転移です。
細胞のがん化を引き起こすものを、発がん因子といい、その中には「初発因子(イニシエーター)」と「促進因子(プロモーター)」の2つがあります。まず、正常な細胞に初発因子が作用して変化を起こさせ、その細胞にさらに促進因子が作用すると細胞はがん化します。つまりがんは、種まきとそれを育てる役割を担う2つの因子により、2段階の作用で引き起こされるわけです。
よく「発がん物質」という言葉を耳にしますが、その中には初発因子もあれば促進因子もあります。初発因子の主なものには、タバコや自動車の排気ガス、タバコのタールに含まれるベンツピレン、食品添加物のAF2、魚や肉の焼け焦げに含まれるトリプP1・P2、紫外線、放射線、B型肝炎ウイルスなどがあります。促進因子の主なものには、タバコ、性ホルモン、サッカリン、農薬のDDTやBHC、断熱材のPCB、鎮痛剤のフェノビタールなどがあります。タバコは初発因子であると同時に促進因子でもあるので、他の因子より群を抜いて危険です。
がん増加の背景には、食生活の変化や日本人の寿命が延びたことがあげられます。がん年齢といわれるものがあるように、一般にがんは高齢者に発生しやすい病気。平均寿命が80歳を超える時代になると、それだけがんが発生する人も増えるというわけです。
でも、できることならがんの芽をつみ、一生健康でありたいもの。今のところはまだ「こうすれば絶対がんの撲滅ができる」という決め手はありませんが、がんの芽を育てないためのいくつかのポイントはあります。
〈がんを防ぐための12箇条〉
バランスのとれた栄養をとる
毎日、変化のある食生活を送る
食べ過ぎを避け、脂肪は控えめに
食物から適量のビタミンと繊維質を多くとる
タバコを少なくする
お酒はほどほどに
塩辛いものは少なめに、熱いものは冷ましてから
肉や魚のこげた部分は避ける
カビの生えたものに注意
体を清潔に保つ
適度にスポーツをする
日光に当たり過ぎない
私達が日頃食べている食品には、がんを引き起こしやすい物質と、がんを抑制する物質の両方が含まれています。ですから、ひとつの食材に片寄らず、少量ずついろいろな種類を食べることを心がけましょう。また、過労やストレスもがんを招く要因となります。スポーツや入浴で新陳代謝を活発にするとともに、心身をリフレッシュすることが大切です。
がんには自覚症状のないものがほとんどですが、発見のきっかけとなる兆候にしこり(腫瘤)と出血があります。しこりや出血がただちにがんの存在を意味するわけではなく、またしこりは相当大きくなるまで気づかないケースもありますが、とにかく、この2大兆候を知っておくことは重要です。
早期がんほど完全治癒率・生存率が高いことは、いうまでもありません。そのためにも、定期的な検診により早期発見に努めましょう。年一回の検診を受けたとしても、検診直後に発病する可能性はあるわけですから、検診は少なくても年一回、続けて受けることが重要です。
がんの診断法は、がんの種類や部位によって異なり、病理組織診断、細胞診、顕微鏡による細胞診、レントゲン診断、内視鏡診断、超音波診断、MRI 、腫瘍マーカーなどがあります。 当然ながら、治療法もがんの種類や進行度などによって異なります。外科切除と放射線治療は局所的ながんの制圧を目的とし、抗がん剤による化学療法は、全身化したがんに対する治療法です。がんが局所病変のみと思って局所療法をした後にも、しばしば全身化という形で再発するため、初期治療は局所的な治療と全身化学療法が併用されます。