温度と湿度による障害 熱射疾・日射病
人間の体温は体のなかで生じる熱と、皮膚などを通じて失う熱のバランスによって35〜37度前後に保たれています。そして、正常な体温を維持するために常に汗をかいています。しかし、炎天下の激しい運動や高温多湿下での作業、夏期の屋外車輛内への乳幼児の放置、酩酊してサウナに入り寝込んでしまうなど、長時間にわたって高い高温にさらされると、発汗量が増えることで脱水症状になり、熱が放出されなくなるので体内に熱がたまり(うつ熱)、体温の調節機能が正常に働かなくなります。そして体温は異常に上昇し、吐き気、頭痛、頭重感、食欲不振といった熱射病の前駆症状が現れます。さらに体温が42〜43度に達すると不可逆的な細胞障害が現れ、発汗作用が止まり、精神錯乱、けいれん、昏睡を生じ、中枢神経や循環器、肝臓、腎臓、呼吸器に機能障害が現れます。熱射病は熱疲労、熱けいれんとともに、医学的に総称された「熱中症」に含まれますが、ほかの2つに比べて死亡率が高く、屋外だけでなく、高温多湿な場所や無風状態の屋内でも、高い気温に長時間さらされるとかかることがあるので特に注意が必要です。
炎天下に帽子や傘なしで長時間いたときに、頭部や頚部が温められて皮膚血管が拡張し、ここに血液が溜まって脳や内臓への血液量が減り、脳貧血などのショック症状が現れるものを日射病といいます。日射病では冷汗が出る、手足が冷たい、脈が速くて弱い、意識はもうろうないし消失するといった症状があります。以前は熱射病と日射病とを分けていましたが、最近になって、両者を分けて考える必要はないことが生理学、物理学、動物実験などで判明しています。いずれにしても、これら高温環境下での熱性疾患は、1.熱けいれん、2.熱疲労、3.熱射(日射)病の三つに分類されています。熱けいれんは塩分欠乏性けいれん、熱疲労は脱水性ショック、熱射病は(視床下部の)体温調節中枢障害により、体温が上昇し、臓器障害がおこることが病気の本態です。
熱射病や日射病を避けるためには、以下のことに注意してください。
1. 長時間の炎天下での作業やスポーツは避ける。とくに体調不良のときは要注意。
2. 湿度に注意する。湿度が70%を超えるときは60%くらいになるように除湿する。
3. 炎天下のなか外出するときは水分を補給するとともに、ごく少量の塩分をとるようにする。脱水症状を防ぐには数百ミリリットルの水分が必要。
4. 衣類は吸湿性・通気性のある白っぽいものを。帽子をかぶり、直射日光を避ける。
5. 日差しのもっとも強い午後1時から3時までの時間帯は特に注意する。
熱射病・日射病に倒れたときの応急処置は、1、ただちに熱の放散を図る、、2、冷たい水や塩分の補給をする、の2つがポイントとなります。
倒れた患者を風通しのよい、涼しい場所に寝かせて衣服をゆるめるなどしてから冷たいタオルや頭部に水枕などを当てたり、全身に冷水をかけながら扇風機やうちわなどで風を送り、全身を冷やします。
皮膚のマッサージも血液循環を助けて放熱を促すので効果的です。体温が38度以下に下がってきたら、冷やすのを止めます。もし、意識がないなどの障害がみられたときは、死の危険もあるので、まず涼しい場所に移したら吐物の誤嚥のないよう昏睡体位とし、すぐに気道の確保を、呼吸が停止しているようなら人工呼吸などの応急処置を施します。意識障害がない場合でも臓器に障害が現れている恐れがあるので、どちらの場合も、一刻も早く医師の治療を受けましょう。