生活習慣病-胃腸病- 早期治療ならほぼ完全に治る大腸がん
食べ物の最終消化器官である大腸。でも40歳を過ぎたころになると、どこからともなく大腸ポリープ切除の話がちらほらと聞こえてきます。良質のポリープならば大丈夫かもしれないけれど、悪質ならばがん……もしもがんだったら……。実は、大腸がんにかかる人が急増しています。厚生省の「人口動態統計」によると、平成10年の大腸がんの死亡者数は全国で3万4397人、全がん死亡者の27.5%を占めています。10年前に比べると、死亡者数も死亡率も約1.5倍となっており、その伸び率からみると、21世紀には胃がんを追い越すと予想されています。それほどまでに身近に迫ってきている大腸がんです。
がんを論じる前にポリープについて書いておきましょう。大腸ポリープとは、大腸のなかにできる、“いぼ”のようなもの。大腸粘膜から隆起した病変のことです。この病変のなかにはたくさんの病気の種類があり、すべてががんであったり、がんになるというものではありません。
大腸ポリープには腫瘍性と非腫瘍性とがあり、腫瘍性の場合には前がん状態と考えられるポリープ、腺腫です。ポリープの診断にあたっては、病変組織を採取するために大腸ファイバースコープ検査を行います。そのほとんどは高周波電流を使用する「内視鏡的ポリペクトミー」によって摘出します。摘出とは、簡単にいえばつまみ出すこと。
この摘出が行われれるようになってから、もう20年近くになるため、全国的には何十万という人がホリープ摘出を行っていると考えられます。腫瘍性であるかどうかは、組織検査ののちにわかりますが、大腸ポリープの場合には、ほかの消化管のポリープとは違い、がん化率の高い腺腫であることが80〜90%にも及ぶので、最近では良質や悪質に関わらず、ポリープが確認できた時点で摘出してしまいます。
腺腫や粘膜がんの場合には、この摘出によって治療は終わってしまいます。とはいっても、野放しというわけにはいかず、その後の経過を定期的に追跡していく必要があります。
こうした何の自覚症状もない前がん状態のときに摘出してしまえば、何ひとつの後遺症もなく、再発の心配もありません。
しかし、最近では、大腸がんはこうしたポリープや腺腫などから起こるばかりでなく、正常な大腸粘膜からも発生するという意見が多く、大腸を観察し、ポリープにはなっていなくても、大腸壁の出っ張りのようなもの、逆にへこんでいるようなものまでも含めて診断されるようになってきています。
大腸は、小腸に続く臓器で、大きくは結腸と直腸の2つに分けられ、結腸は盲腸、上行、横行、下行、S状結腸に、直腸は上部、下部に分けられます。このうちがんが発生しやすいのは、日本では圧倒的にS状結腸から直腸に多く、大腸がんの約70%を占めています。
男性も女性も、ほぼ同じ頻度でかかりますが、その年代は欧米に比べると、約10歳ほど若い傾向にあり、60歳代がピークで、70歳代、50歳代と続きます。5〜10%の頻度で30歳代や40歳代の若年者にも発生します。
大腸がんの検査と治療は次のように行われます。
いわゆる検便です。便のなかの血液を調べる検査ですから、陽性になったからといってかならずしも大腸がんということではありませんし、陰性だからといって、確実にがんではないともいえません。
医師が肛門から指を入れて触診する方法で、直腸の内壁に直接触れるため慣れた医師ならば、かなり高い確率で発見することができます。ただし、範囲は指の届くところまで。
肛門からバリウムを注入し、その後に空気を送り込んで大腸の内壁にバリウムを薄く付着させ、レントゲン撮影をします。この方法では、細かいヒダの病変をチェックすることができます。
主役はファイバースコープ。グラスファイバーを束ねたもので、肛門から入れます。自由に曲がりくねることが可能なので、曲がりくねった腸内の検査には威力を発揮。胃カメラよりも苦痛は少なく、S字結腸をとおるときに突つかれるような痛みがありますが、ほかに痛みはありません。ただし、この検査の前に大腸内をきれいにするために、大量の下剤を飲み、ひとひらの浮遊物もなくなるまで内容物を全部出してしまいます。そのほうがずっと苦痛だという人もいます。
ファイバースコープの先端には、小型のライトとカメラが搭載されており、腸内の様子を映し出します。そしてポリープをみつけると、ワイヤーを出して高周波で摘出するポリペクトミーが行われます。
粘膜下層にまで到達していなければ、内視鏡的切除で終了しますが、粘膜下層に潜ってしまうと、8〜13%程度の人はリンパ節転移を起こしている可能性があるため、手術が必要になります。そうした場合の治療は、がんの大きさというよりも深さが問題。内視鏡検査でも取り残しそうな場合には外科的な手術が必要になります。
内視鏡で摘出した3カ月後には、取り残しがないかの検査が行われ、あと1年ごとに検査をしていきます。
大腸がんでは、早期においてはほとんど自覚症状がありません。したがって、機会あるごとに検査を受けるようにするしかありません。
かなり大きくなると「おなかが張る、おなかが痛い、血便」という代表的な症状が現れますが、これらの症状が現れたときにはかなり進行した状態です。
また、大腸のどこにがんができているかによっても、自覚症状には違いがあります。肛門から近い部分にできると、血便を確認することが多くなりますが、遠い場合には肉眼でみつけることはできません。
だからといって、まったく自覚症状がないわけではありません。便の状態、出方などによって、ある程度、その異変を知ることができます。日常的には別表のチェックを行ってみましょう。
また、早期に発見するためには、1年に1回は検査が必要です。
なぜ大腸がんになるのか、については、遺伝的因子と環境的因子がありますが、増加している最大の原因は、環境的因子である“食生活の欧米化”にあると考えられています。動物性脂肪を多くとると、消化吸収するために胆汁酸が濃くなり、これが腸内で発がん物質になると考えられ、さらに食物繊維の少ない食事によって便秘が続くと、発がん性物質が腸内に長く停滞するため、がんの危険性が高くなると考えられます。
実際、戦前におけるわが国の大腸がんの発生率は低く、今でも東南アジアやアフリカなど、低脂肪、高繊維食の地域では少なく、アメリカなどでは多いことがわかっています。
大腸がんの進行は、ほかのがんに比べて、比較的ゆるやかで、進行状況によって初期がん(早期がん)、中等度のがん、進行がんに分けられます。早期に発見できれば、内視鏡的切除や外科療法によって完全に治すことができます。
少し進行していたにしても、手術可能な時期に発見できれば、完全治癒も可能です。発見が遅れると、肝臓や肺、リンパ節や腹膜に転移し、切除が困難になります。こうした時期には、手術に加え、放射線療法や化学療法が行われます。
手術を受けた後に再発することもあるので3〜4カ月間隔での定期的なチェックが必要で、再発の8割が3年目以内に発見され、5年以上再発しないことが完治の目安です。
@便に血がついたり混ざったりする
A腹痛が続く
B下痢や便秘をくり返す
Cおなかが張っている感じがする
D原因不明の貧血がある
E排便後、便が出きらない感じがする
Fしつこい腰痛が続く
G便が細くなる
Hおなかが鳴る
I突然、原因不明の嘔吐をした
自覚症状として@があれば、「痔が悪い」「受診するのが恥ずかしい」などと思わずに、すみやかに検査してください。大腸がんの危険信号はまず出血です。A〜Iまでの3つ以上の症状があれば、専門機関に受診し、検査を受けてください。