インフルエンザとかぜ 恐いインフルエンザの重症化
毎年、インフルエンザにかかる人の数は、100万人を超えます。しかし、昨シーズンは流行が非常に少なかったために約12万人と例年の10分の1でした。インフルエンザにおける毎年の死亡者数は別表の通り。平成11年には1300人強の人が亡くなっています。
65歳以上の高齢者、幼児、年齢にかかわらず心臓、肺や腎臓に慢性の病気をもつ人、生活習慣病にかかっている人(糖尿病患者、免疫抑制剤による治療が必要な人など)などのハイリスク者はもちろんのこと、過労やストレスで極端に体力を消耗している人は、この時期、とくにしっかりとインフルエンザの予防対策を行ってください。
インフルエンザの典型的な症状は、突然の高熱、悪寒から始まります。同時に強い倦怠感、関節痛、筋肉痛などの全身症状も現れます。くしゃみ、鼻水、鼻づまり、のどの痛みといったふつうのかぜの症状は後からついてくるのが特徴。
こうした症状に加えて、小児では熱性けいれんを伴うこともまれではありません。また、肺炎、気管支炎などの合併症をひきおこします。
呼吸器や心臓に慢性の疾患をもつ人、そして高齢者の場合には、重症化するおそれがあるので、よくよく注意が必要。また近年、幼児がインフルエンザにかかると、ごくまれに脳症を併発して死亡するといった問題も指摘されています。
インフルエンザが死に結びつくのは、合併症などで重症化したとき。そのなかでももっとも多いのが肺炎です。肺炎にかかると、発症からわずかに24〜48時間以内に死んでしまうなどというケースもまれではありません。
インフルエンザから起こる肺炎には、インフルエンザウイルスによるウイルス性肺炎、細菌による二次性肺炎、そしてウイルスと細菌の混合感染による肺炎があります。
通常、健康な人の場合には、気管支の防衛機構によってウイルスが肺胞まで到達することを阻止しています。しかし、防衛機構が弱っていれば、容易に肺にまで入り込みます。また、健常な人ではインフルエンザウイルスは気管支では増殖できても、肺胞領域には感染しにくく、容易に増殖できないとされていますが、肺や気管支に細菌感染が起こっていると、容易にウイルス感染することとなり、肺のなかでもウイルス増殖が進行してしまいます。そのためにウイルス性肺炎、ウイルスと細菌の混合感染がおこります。
もともと体力の低下している人の場合にはインフルエンザに感染することによってさらに抵抗力が落ち、上気道あたりに常に存在している細菌が肺のなかに入ることによって起こる二次性肺炎も多くなります。とくに、お年寄りの場合には、咽頭反射が弱くなっており、ものを飲み込む機能が低下していますから、食べ物が気道に入りやすく、その食べ物といっしょに入り込んだ細菌が肺のなかで増殖を起こしやすくなっています。そこにインフルエンザのウイルスが侵入してきたり、高熱により体力が低下したりすれば、いとも簡単に肺炎になってしまいます。
若い人や子どもの場合、肺炎を起こすと、高熱に続いて呼吸困難に陥ります。呼吸するたびに「ヒューヒュー」というラッセル音が聞こえ、唇や指先が紫色になるチアノーゼを起こしたりもします。
お年寄りの場合には、このような派手な症状はほとんどなく、微熱程度のまま重大な肺炎を起こしていることが多くなりますので、食欲の低下や傾眠傾向などに特に注意が必要です。
肺炎を合併した場合には、早急に治療が必要です。治療では、検査によって肺炎を起こしている菌を特定し、有効な抗生物質を投与します。重症になると、全身管理のため入院が必要となる場合もまれではありません。
肺炎を起こす菌のなかでも、もっとも多いのが肺炎球菌。肺炎球菌には80種類ほどの型がありますが、そのうち感染機会の多い23種については、予防ワクチンが開発されています。この23種が肺炎球菌感染症の約80%を占めるといわれており、高齢者などのハイリスク者の場合には、インフルエンザ予防ワクチンといっしょに接種しておけば、入院や死亡をかなりの率で阻止することが可能です。