体内で自家骨組織を再生
近い将来、移植に用いることのできる新鮮かつ拒絶反応が生じない骨組織の再生が、患者自身の脛骨あるいは大腿骨の表面で可能となることが、米バンダービルト大学(ナッシュビル)医用生体工学科助教授のPrasad Shastri氏らの研究で明らかにされた。研究は「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」7月29日号に掲載された。
Shastri氏らはウサギを用いた実験で、脛骨表面(骨表面と骨膜の間)に作製した“バイオリアクター(生物反応器)”環境から新たな骨組織の増殖に成功した。6〜8週間かけて骨組織を成熟させた後に取り出し、損傷部に移植したところ、損傷を来した部位を修復することができた。この方法は現行の手技とは異なり疼痛を伴わず、骨癌(がん)や慢性背部痛、再建手術までの骨折など種々症状の治療に改革をもたらすものであるという。
Shastri氏は「目下の目標はヒツジやヤギなどの大型の動物モデルを用いて効果を得ること」であり、「1年以内にヒトを対象とした臨床データの発表を準備する意向である」と述べている。
脊椎固定術を施行する患者は米国内で年間30万例を超え、通常は慢性背部痛の治療を目的としている。その多くは、臀(でん)部から骨を切除する。この切除術に伴う筋肉の損傷および外傷は相当なものであり、脊椎固定術ではなく切除術の疼痛を訴える患者は約30%に上る。脊椎固定術に限らず、顔面再建術の骨移植や癌による骨欠損、治癒が困難な骨折にも、自家骨(患者自身の骨)移植の方が理想的であることは明らかである。
Shastri氏は「体内で組織を再生することができれば、患者は倫理的問題や拒絶反応の問題を懸念する必要はなくなる。これは強力なパラダイム(科学者間で合意された基本的な考え方の枠組み)であり、われわれの研究は正しい方向に進んでいる」と述べている。