同性愛者は生まれつきか学習によるものか-議論が再燃
同性愛の少なくともある局面に関しては、脳のハードウェアに埋め込まれた生まれつきのものであることを示唆する研究が、同問題に関する議論を再燃化させている。
カロリンスカ大学病院(スウェーデン)のIvanka Savic博士らは、フェロモンの嗅覚への影響が同性愛男性と異性愛男性では異なること。またフェロモンに対する脳での反応が同性愛男性と女性で似ていることを見出し、米国科学アカデミー発行の「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」5月9日号オンライン版で報告した。
フェロモンは同種の個体へ性的メッセージを送る化学物質で、臭いとして気づかれないことも多い。男性の汗に含まれるテストステロン誘導体のAND (4,16-androstadien-3-one)と、女性の尿に含まれるエストロゲン様ステロイドEST (estra-1,3-5(10)、16-tetraen-3-ol )は、ヒト・フェロモンの候補物質とされている。ANDとESTを嗅いだときの脳の反応を調べたところ、ANDは同性愛男性と異性愛女性の視床下部を活性化し、ESTは異性愛男性のみで視床下部を活性化した。このことは、性的性向が視床下部での神経処理過程に関係することを示唆する。
米イリノイ大学精神医学部門のBrian Mustanski博士によると、動物で視床下部が性行動に関与することや、同性愛男性と異性愛男性での視床下部の差異が過去の研究で示されており、まもなく発表される別の研究によれば同性愛男性と異性愛男性では体臭が異なるという。これらの情報を統括すると、性的性向には体臭(おそらくフェロモン)が関与する生物学的局面があり、単に個人の選択の問題ではないといえる。
しかし、この研究が「同性愛は生まれつき」と示すわけではないという専門家の反論もある。脳は筋肉のように可塑的で、繰り返しの性行動が視床下部に変化をもたらしうるという。また、嗅覚は部分的には学習によるもので、被験者の脳が過去の性経験からこれら化学物質に対する性的反応を獲得したという、被験者が気づかない学習が関与している可能性も指摘されている。
同性愛・両性愛保護団体Human Rights Campaign Foundation副会長のWinnie Stachelberg氏は、今回の研究は性的性向に関する科学的根拠を与え、こういった研究が人々の相互理解の手助けになると述べ、さらなる研究の必要性を訴えている。