漢方って安全?
漢方薬は「すぐには効かないけど、作用が穏やかで副作用も無い」という理解は正しくないということを前回で述べましたが、西洋薬と比較した場合の安全性は高いといえるように思います。まず、「傷寒論」の頃からでも2000年近く使われ続けてきたために、慢性毒性や副作用について長時間にわたり経験が積み重ねられ、かなり安全な用法が確立しているということが言えます。適切な生薬の組合わせからなる漢方薬を通常は1種類、多くて3種類までしか投与しないので漢方薬単体とそれらの組合せでの安全性のチェックがやりやすいということもメリットです。
例えば漢方の場合、風邪には葛根湯や柴胡桂枝湯などの中から1つを選択すれば良いのに対して、西洋医学では症状に応じて解熱薬、消炎鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、抗生物質など多くの薬が投与され、それらの副作用を抑えるため胃腸薬も追加したりします。個々の解熱薬、消炎鎮痛薬、抗ヒスタミン薬などには多数の選択肢がありそれらの組合せの全てが安全かということは5年10年と治験に時間を費やしても完璧には確認できない懸念があります。
確かに漢方薬にも近年明らかになった副作用があることはあります。小柴胡湯(しょうさいことう)による間質性肺炎、生薬ではエフェドリンを主成分にする麻黄の胃腸障害、甘草では、むくみや高血圧などの偽アルドステロン症などが報告されています。中でも最近大きな問題となったのは小柴胡湯投与による間質性肺炎の発症でしょう。
小柴胡湯は、平成7年3月に厚生省による再評価の結果、「慢性肝炎における肝機能障害の改善」の有用性が認められた漢方薬であり、日本肝臓学会が発行した「肝がん白書」においても、慢性肝炎の治療薬として取り上げられる等、慢性肝炎の治療薬として評価が定着しています。しかしながら、一方では、すでに平成3年4月に添付文書「使用上の注意」の副作用の項に間質性肺炎がおこることがある旨が記載されています。このように副作用が認知されているにもかかわらず、平成9年12月から平成11年11月の期間に、小柴胡湯投与による間質性肺炎の副作用として、 その因果関係を否定できない死亡例が8例報告されています。
優れた肝臓病の治療薬でありながら死亡例が発生したために大きく注目を浴びた小柴胡湯ですが、この例に限らず漢方薬の引き起こす副作用の原因として、漢方医学的誤診にも注意しなければなりません。実証として診察されていた患者が実は虚証だったために、副作用が発生する場合があります。また、漢方の治療指針では患者の身体を暖めるべきか冷やすべきかが大きな選択肢となりますが、ここでの「証」の判断が間違うと、冷やすべきところを暖めること(あるいはその逆)による予想外の反応が生じることもあります。これらを漢方では誤治と呼び副作用とは区別しています。
さらには、漢方薬と西洋薬を併用したことによって、症状がかえって悪化する可能性があります。漢方薬も西洋薬も薬であることに変わりはないので、それらをいくつか服用しなくてはならないときは、必ず医師に相談することが大切です。また、漢方薬は副作用がないと思い込み、同じ症状を訴えている別の人に同じ漢方薬を分けたところ、副作用が出てしまったという例もしばしばあります。同じ症状であっても、「証」は人それぞれ違いますから、自分に効いたからといって、漢方薬を安易に人にすすめるのは避けたいものです。
ところで、漢方には副作用に似た「瞑眩(めんげん)」という反応があります。体が回復している途中にあらわれる特有の反応で、下痢や吐きけ、頭痛などの症状があります。瞑眩は、比較的早期におこり、急激に回復していくのが特徴で、副作用ではありませんが症状がつらいようなら、医師に相談する必要があります。