慢性病には漢方?
今までのお話では漢方=慢性病という考えは必ずしも正しくないということを述べてきましたが、「漢方の得意とする分野が慢性病である」ことはまぎれもない事実です。今回はあらためてなぜ漢方が慢性病に適しているのかを分析してみます。
まず慢性病とは何かを考えて見ますと今日の日本では生活習慣病・アレルギーの占める割合が高いといえます。そして、まさにこれらを中心とする慢性病に漢方は優れた効果を発揮します。また、明確な病名が診断できないにもかかわらず種々の不快な症状を訴える慢性的な心身症・不定愁訴にも漢方は様々な処方で対応できます。
西洋薬でももちろんこれらの慢性病に効果のある薬はありますが、感染症に対する抗生物質のような根本原因を取り除ける薬は少なく、対症療法を中心に処方することになります。対症療法は必然的に複数の西洋薬の組合せとなり、それらの組合せの安全性に常に考慮しなければならないことは前回も述べたところです。また組合せの問題が無くても、単独での副作用、長期服用の場合の悪影響なども西洋薬は漢方薬以上に制約が多く治療の妨げとなります。
さらに、対症療法的な西洋薬は使用をやめると再発したり、症状もかえって悪化したりする場合がありますが、漢方薬の場合はそのようなケースは西洋薬よりはるかに少ないことが実証されています。これは漢方薬が生体の自然治癒力を活性化する方向に働き、生体の各種の機能のバランスを正常化しそれを維持させるからであるといえます。逆に、生体が正常なバランス(ホメオスターシス)を維持している間は通常の分量の漢方薬を投与してもあまり作用を示しません。西洋薬では殆どの場合このようなことは無く(例えば脱水状態の人にも西洋薬の利尿剤は脱水の傾向を強めるように働いてしまいますが)、漢方薬の作用が一般に穏やかで安全であるという側面を示しています。
では、なぜ漢方薬が長期服用しても副作用がなく、かつ身体を正常化して行くのでしょうか?それは2000年以上にわたる経験により個々の生薬の組合せの相乗効果を引き出し、生薬の持つ副作用を軽減させ、さらに生体バランスを正常化する処方だけが生き残ってきたからです。そしてその背景には生薬を上品(じょうほん)(副作用がなく、あるいは他の生薬の副作用を軽減させ、長期的に体質改善させるもの)中品(ちゅうほん)(少量または適正期間ならば副作用が出ないもの)下品(げほん)(作用は強いが副作用が出やすい)というタイプに分類し、それらを「君臣佐使(くんしんさし)」という配合理論で組み合わせるという、漢方独自の優れた薬学理論があります。
慢性病に的確な効果を与える漢方薬は、数千年、数百年(短くても百年以上)にわたる長期の治験により淘汰された安全で有効な処方の集大成であるといえます。