梅雨の季節の湿邪、水毒による体調不良、アトピー悪化
★「湿邪」過度の湿気は病気をおこす原因となる★
漢方では、過度の湿気は病気をおこす原因の中でも、「六淫」(りくいん)と呼ばれる外因のひとつであり、「湿邪」 と呼んでいます。湿邪によるからだへの有害作用を「水毒」「痰湿」などと表現しています。湿邪はからだのなかでも 体表部の皮膚や筋肉、関節を冒すとともに、内臓ではとくに胃腸系統に悪影響をおよぼします。
☆皮膚の生理機能と湿邪の影響☆
皮膚には体温調節機能がありますね。ご承知のように、外気温が高く、暑くなれば汗腺を開いて発汗をうながし、体温を下げます。 逆に気温が下がり寒ければ、汗腺を閉じ、肌をひきしめて体温を逃がさないように調節します。さらに大切なのは、皮膚呼吸をしている ことですね。肺呼吸の補助的役割くらいに軽く考えられがちですが、実は全身の皮膚を通しておこなわれるガス交換は重要で、 酸素を取り入れるとともに炭酸ガスを排泄しています。一説によれば皮膚呼吸をより活発にすることによって、体内でいわゆる 不完全燃焼によってできた一酸化炭素を酸化し、炭酸ガスとして体外へ発散させ、体液を清浄にするとされます。肺呼吸だけでなく、 皮膚から天空の清気とともに酸素を十分とりいれ、発汗とともに老廃物や皮膚呼吸により炭酸ガスを排泄することは健康維持に必要です。
皮膚は外気の変化にとても敏感です。湿度が高くなると皮膚呼吸がさまたげられるため、なんとなく息苦しく感じますし、皮膚が気持ち悪く、 重苦しい、といった不快感をおぼえますね。アトピーでは、ジクジクや水疱など、水分をもつような湿潤性病変は、 湿邪の影響によって悪化しやすくなるようです。夏期増悪型のアトピーにはきつい季節です。冬に悪化しやすい乾燥型では 逆に軽快する場合もあります。この季節では一般に皮膚機能が弱りがちなので、発汗し、乾かず蒸された汗の刺激などで悪化しやすいものです。 そのため、現代日本の多くの住宅、職場環境ではこの季節、エアコンによる除湿がどうしても必要になってきますね。汗をたくさんかいたら皆さん 早めにシャワーを浴びたいものですね。
私は日本の心ある職場には是非、従業員の健康増進のために浴場ないしシャワールームを設置していただくことを提案したいのです。 昼休みや終業時には自由に使えるようにしていただければ、どんなに助かることでしょう。昔はどこにでも銭湯、公衆浴場があったのは 便利でしたね。皮膚機能を改善、強化する現実的方法として、「入浴後の水かぶり」の習慣や、「温冷交互浴」法があります。 私は病院勤務時代には医師用の浴室が必ずありましたので、帰宅前によく入浴したものです。もちろん医者としての職務上の汚れを 落とす意味もありましたが、温浴後は水のシャワーをたっぷり浴びて疲れをとることができました。肌着としては格好を気にしなければ、 登山家が用いるような「網シャツ」がおすすめです。私は若いころにいつも着用していました。網と網の間に広い空間があり、通気性が よいので汗が発散されやすく、蒸れにくい長所があります。スポーツ店などで求めてください。
☆手足、関節などにおよぼす影響☆
梅雨の季節は確かに蒸し暑いのですが、湿気はまた、からだを冷やす性質があります。湿邪と冷えのからだへの影響はまず、 手足のだるさとなってあらわれ、さらにからだが全体に重だるくなります。この季節、寝る前は蒸し暑くても明け方に気温が低下 することが多いため、手足やからだを冷やしやすいものです。翌朝の重だるさや、筋肉痛、足のこむらがえり、関節痛などをおこす ことがあります。リウマチや関節炎の症状は悪化しやすくなります。汗をかいたあとにエアコンで冷やしすぎないことと、就寝中は 長袖、長ズボンのパジャマなどを必ず着用するようにして、上下肢に湿気や冷気が直接当たらないようにするだけでかなり効果があります。
★梅雨時の胃腸の健康★
消化器系のはたらきのことを漢方では脾胃(ひい)といっております。東洋医学的な考え方ですが、脾胃には食物を 消化吸収する主作用のほかに、水分代謝をおこなう大切な機能があります。消化管内では毎日、実に8リットルもの大量の消化液が 分泌され、また水分を再吸収して血液中にもどし、体内を適度に潤しています。脾胃のはたらきが正常であれば、体内に一時的に 過剰な水分があっても、それをうまくさばき、腎臓や膀胱に導いて尿として排泄させ、からだに適度の水分が保たれるように調整して いるのです。
一般に、ビール、ジュース、アイスクリーム、などの冷たいものや脂っこい食べもの(天ぷら、トンカツなど)の摂取過剰や常食は 胃腸に負担をかけるでしょう。脾胃が失調し、水分代謝機能が低下し、水毒をもたらす「脾虚」(ひきょ)という病態になります。 さらに、梅雨時の多湿、湿邪によってもこの脾虚が起こりやすいのです。胃がもたれる、お腹がはる、ガスがたまりやすい、 軟便や下痢ですっきりしない、などの症状が見られます。一方、皮膚の局所では脾虚のため、水毒が体内にたまり、次第に熱化して、 湿熱といわれる邪となり、ジクジク、赤み、湿疹悪化の要因となると考えられるのです。ですから、暑湿の季節は今あげたような 食べ物にはとくに注意して食養生に努め、胃腸の調子をととのえてください。
脾虚を改善する漢方薬としては、平胃散、 六君子湯、茯苓飲、 啓脾湯、補中益気湯などがあり、 症状、体質をよく考慮して用いられます。
梅雨はうっとうしく、皮膚や胃腸にも影響がおきやすい季節ですが、ご参考になさって元気にお過ごしください。