アルツハイマー病研究への警鐘と新知見
アルツハイマー病にみられるアミロイド-β(ベータ)蛋白(たんぱく)の形成にはβ-セクレターゼという酵素が重要な役割を果たしているといわれ、この酵素を不活性化させる薬剤を開発しようと研究が続けられてきている。ところが、この取り組みに暗雲をもたらすような研究結果が、米科学誌「Science」オンライン版9月21日号に掲載された。ドイツ、ベルギー、米国の研究グループによると、β-セクレターゼは、神経細胞を覆い保護する髄鞘(ずいしょう)の形成にも関与しており、β-セクレターゼの作用を阻害すると生涯にわたる神経損傷を引き起こす可能性があるという。
ただし、米Farberファーバー神経科学研究所(ペンシルベニア州)所長のSam Gandy博士によると、この知見がアルツハイマー病の薬剤開発全体にとって致命的な打撃となるわけではないと述べている。この研究は、髄鞘が形成される時期の幼齢マウスを用いたものであり、成体には重大な影響を及ぼさない可能性を指摘。また、いずれにせよβ-セクレターゼ阻害薬の開発にはさまざまな問題があるという。
十分な作用があり、かつ毒性のない阻害薬を得ることは極めて難しく、飲み込める大きさの錠剤を作るという実用面での課題もある。さらに、アルツハイマー病の薬剤開発への取り組みは、酵素を用いたものに限られているわけではなく、他の方法については今回の結果が影響することはないという。しかし、今回の知見を踏まえて、慎重に慎重を重ねる必要があると述べている。
「Science」9月22日号に掲載された別の研究では、アルツハイマー病患者から採取した異常蛋白をマウスに注射すると、アルツハイマー様の蛋白凝集を引き起こすことが明らかにされた。米Emoryエモリー大学(ジョージア州)神経学研究教授Lary C. Walker氏によると、このことから、アルツハイマー病はプリオンが蛋白の折りたたみ異常を引き起こすことにより生じる狂牛病などの疾患に類似しているという。
この研究は、アルツハイマー病の原因を可能な限りさかのぼる取り組みの一つであり、新たな治療法の可能性につながるものだという。アミロイド-β蛋白の形成はアルツハイマー病の基本的な特徴だが、蛋白の異常化がどのようにして起こるのかについては全くわかっていないため、このような動物モデルが役立つはずだとWalker氏は述べている。