脳卒中後のうつ病を見過ごす
脳卒中後にうつ病を発症する患者が17%に及びながら、抗うつ薬治療を受けている人が5分の1に過ぎないことがオーストラリアの研究で明らかになった。米サウスカロライナ医科大学疫学教授で米国心臓協会(AHA)スポークスマンのDaniel T. Lackland氏は、今回の結果はこれまでの研究結果を裏付けるもので、米国でも同様な状況が生じているという。
米医学誌「Stroke」9月28日オンライン版掲載の研究では、脳卒中発症5年後の男女患者289人を訪問し、うつ症状の有無や治療薬の服用状況を調査した。その結果、17%がうつ病に罹患していたが、抗うつ薬治療を受けていたのはわずか22%であることが明らかになった。治療効果は、服薬患者の72%で認められた。研究者は、うつ病が未治療の理由として、医師が治療薬の効果や安全性に確証を持てていないことや、うつ病が未診断であることが挙げられるとしている。
研究著者で豪国立脳卒中研究部研究者のSeana L. Paul氏は、薬物療法は気分を高揚させる以上の効果があると指摘、「うつ病ではない脳卒中患者の方が長命で、生活の質も高いことは判明しており、医師や患者、患者家族に脳卒中後のうつ病リスクの教育をすれば、発見率が上昇し、治療効果も向上させることができる」と述べている。
Lackland氏は、うつ病の未治療な理由は明確ではないとしながらも、「多くの要因が重なっており、その一つとして、脳卒中患者が精神科医に紹介されることはまずなく、プライマリーケア医の間ではうつ病は評価されていないことが考えられる。また医師は、血圧や糖尿病のコントロールなど、脳卒中管理の別の側面に気を遣いがちである」と述べている。さらに脳卒中患者が生に対して以前ほど熱心ではなくなることも要因だとしている。
このため、Lackland氏は、友人や親族が脳卒中患者のうつ病の兆候に注意し、治療を勧めることが非常に重要だという。今回の研究結果は、脳卒中後の抗うつ薬治療に関する大規模対照臨床試験の必要性を示唆している。