癌(がん)の遺伝子治療に成功
遺伝子治療によって実際に癌(がん)を食い止めることができることが初めて示された。メラノーマ(黒色腫)の患者2人で18カ月にわたる寛解がみられたという米国立癌研究所(NCI)のSteven Rosenberg博士らの報告が、米科学誌「Science」オンライン版に8月31日掲載された。
今回の研究は、癌などの異質な細胞を検知し破壊する働きをもつTリンパ球と呼ばれる白血球の能力を高めることに焦点を当てたもの。研究グループは、進行した転移性メラノーマ患者17人から正常なT細胞を採取し、遺伝子操作によりメラノーマ細胞の認識を助ける受容体を持たせ、その後、それぞれの患者の血液中に戻した。この結果、17人中2人がすぐに寛解に達し、1年以上経った現在も無病状態が続いているという。
他の患者については思わしい効果は得られなかったものの、多くは遺伝子操作されたT細胞が免疫システム内に長く残り、少なくとも処置後2カ月の時点で血液中のリンパ球の10%以上を占めていた。治療効果がみられなかった理由は、今回の方法にはまだ粗さが残っており、使用する受容体やそれを細胞に組み入れる方法などが最適とはいえないものだったためと、Rosenberg博士は説明している。
数カ月以内には、肺癌、乳癌、結腸癌などの認識に適した受容体を用いて、臨床試験を開始する予定だという。今後の研究は何年にもわたる長い道のりになると思われ、今回の成果はその始まりにすぎないが、それでも数十年の苦労が報われる功績で、患者に希望を与えるものだと専門家は述べている。