遺伝子に基づく癌(がん)研究は解釈ミスが多い
「遺伝子マイクロアレイ」と呼ばれる方法に基づいた癌(がん)研究の多くで、その分析方法や結論に重大な不備があることが示され、米医学誌「Journal of the National Cancer Institute」1月17日号に掲載された。これらの研究結果を癌患者治療のベースに用いた場合に、有害な結果を招く恐れもある。
マイクロアレイとは、1枚のスライドガラス上で数千の遺伝子の発現状態を一度に調べることができるツール。癌研究では、ある腫瘍に独特の遺伝子パターンの調査、新しい薬剤標的の発見、治療法選択のための腫瘍の分類などに利用されているが、得られるデータが膨大で、解釈を誤りやすいという問題もある。
今回、米国立癌研究所(NCI)のRichard M. Simon氏らは、マイクロアレイによる遺伝子のプロファイリング(解析)結果を、病状などの医学的結果と比較した研究のうち、2004年末までに発表された90研究について調べた。
2004年に発表された42研究の統計学的方法および報告に着目したところ、半数の研究で1つ以上の基本的な誤りが認められた。遺伝子と転帰(病気が経過し別の状態になること)との関連についての23研究のうち9研究では、偽陽性の結果を招く不適切な方法が用いられていた。13研究では、結果の分類について裏付けのない主張がされていたほか、転帰を予測する28研究のうち12の研究で予測の正確さの評価に偏りがみられた。
この問題を解決するには、生物学者、医師、統計学者の協調が必要だが、異なる分野どうしの学際的協力は依然としてうまくいっていない。もっと統計学者が関与することが必要だとSimon氏は述べている。
米国癌協会(ACS)のLen Lichtenfeld博士によると、遺伝子データは癌の治療法決定に大きく関わっており、例えば乳癌患者が補助化学療法を受けるかどうかの決定にも利用されている。しかし医師の多くは遺伝子データの評価にあまり精通しておらず、論文の著者、査読者および掲載誌そのものに依存している。優れた医学専門誌でも不正確なデータの解釈をそのまま掲載しているようだという。