ユニフォームカラーがスポーツ観戦を可能にする
サッカーのワールドカップでの巧みなパスや激しいシュートを観客が追うことができるのは、各チームが身に付けているユニフォームの鮮やかな色のおかげという報告が、医学誌「Psychological Science」7月号に掲載された。
これまでの研究から、ヒトは年齢にかかわらず、他の霊長類と同様、3つ以上の物体に同時に注目し続けることができないことがわかっている。では、ヒトはなぜ何十人もの選手が入り乱れて走り回るチームスポーツを見て、楽しむことができるのだろうか。米ジョンズ・ホプキンズ大学(ボルチモア)心理学脳科学助教授のJustin Halberda氏らは、ヒト社会で、対戦するチームや戦場で敵対する兵士が、互いに異なる色を身に付けるようになっていることに答えがあるのではないかと考えた。
Halberda氏らは、ボランティアの学生に、コンピューター画面上にランダムに表示される何色かに色分けされた点(ドット)を見せた。一部の被験者にはあらかじめ「赤いドットに注目」などの注意を与え、残りの被験者には特に注意を与えなかった。その後、被験者に特定の色のドットがいくつ表示されたかを推定させた結果、前もって注目する色を指示された被験者の方がよい成績だった。あらかじめ指示を受けなかった被験者も、ある程度は正確に推定できたが、全体の色数が3色以内の場合に限られていた。
Halberda氏によると、複数の物体が1つの集合を形成していれば、ヒトはその集合体を個体として見ることにより3つを超える物体にも注目することができるという。しかし、注目できる集合体の数は、個々の物体の場合と同じく3つまでで、歴史的に2チームで戦うゲームしかない理由もここにあるという。色以外での集合化しやすいものには体の方向があり、垂直に立っているほうが水平に寝ているより集合化しやすいようだが、形や性別などは、脳が処理するのに時間がかかりあまり有用ではないという。
Halberda氏は、似た色同士をまとめて集合化するというヒトの能力には、進化的なルーツがあると考える。例えば原始人が最も多く実のついたオレンジの樹を選ぼうとしたとき、もし一度に3個の実までしか注目できなかったら、極めて困難な作業となる。しかしこの能力のおかげで、樹を見上げ、多数のオレンジを同時に見て、よい樹を選ぶことができるのだという。