たとえ一杯のアルコールでも判断力を鈍らせる
仕事が終わったあとに1杯だけならば飲んでも運転して帰宅できると思っている人に、その考えを改めさせるべく研究が、米医学誌「Applied Cognitive Psychology」に報告された。たとえ飲酒の血液検査で法的制限量の半分の数字であっても、飲酒者では著しい視覚的障害を来たしているという。
米ワシントン大学(ワシントン州)の研究者らは、飲酒による「不注意な視覚消失inattentional blindness」と呼ばれる仮説の検討を行った。「不注意な視覚消失」とは、他の作業や物体に気を取られていると、思いもよらないものが眼前に現れても視野に入らない現象をいう。
今回の研究では、被験者はアルコール含有か非含有の飲料のいずれかを、内容を知らされずに10分間で摂取。摂取後、6人のプレーヤーがボールを投げ合うビデオを25秒間鑑賞させられ、パスが何回行われたか数えるよう指示された。ビデオの途中、ゴリラの縫いぐるみを着た人が胸をたたきながら登場し、プレーヤーの間を横切って消えた。ゴリラの出演時間は全体の3分の1だった。
検討の結果「軽度の酔い」と判定された被験者は、酔いの程度がより低い被験者に比べてゴリラを見なかったと答える傾向が2倍高かった。この知見は、「軽度の酔い」で運転するのことの危険性を示していると研究著者のSeema Clifasefi博士は指摘する。
Clifasefi博士は「運転はスピード制限、道路標識、他の車など、多くの情報を一度に得る能力に依存している。もし、わずかなアルコールでも情報入手能力を低下させるなら、運転能力も低下することを意味する」と述べ、一例として、「一杯飲んで捕まらないように速度制限を気にしていると、目の前に現れた歩行者を完全に見逃してしまう」ことを挙げている。