アルツハイマー病ワクチンはパッチ剤形式が安全
被験者が脳炎を起こして死亡したことで暗礁に乗り上げていたアルツハイマー病ワクチン開発に、パッチ(貼付)剤という形で新たな道が開けそうだ。マウスを用いた研究で、「経皮」(皮膚に貼る)ワクチンにより安全かつ効果的に、アルツハイマー病に特有な脳にできる老人斑(プラーク)を除去できることが示され、米国科学アカデミー発行の「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」1月22-26日号で報告された。
アルツハイマー病ワクチンは、免疫システムを刺激し、アルツハイマー病患者の脳に蓄積するアミロイド-β(ベータ)という蛋白(たんぱく)を攻撃させるもの。過去にアルツハイマー病ワクチンの臨床試験が実施されたが、少数の被験者が重篤な自己免疫反応(脳炎)を起こして死亡するという悲惨な結果に終わっている。
この臨床試験は無期限に延期されたものの、被験者の追跡を続けた結果、このワクチンに反応して免疫システムにより抗体が作られることが判明した。4年前の試験開始以来、一部の被験者は依然として安定を保っており、1人は最近マラソンレースにも参加した。今回の報告を行った米サウスフロリダ大学アルツハイマー研究所のDave Morgan氏は、「脳炎を起こすことなく広く利用できる安全な免疫療法の開発を後押しする」ものだと述べている。
一般に、ワクチンに対する身体の反応は1型ヘルパーT細胞(Th1)または2型ヘルパーT細胞(Th2)のいずれかによるもので、Th1は過去の試験にみられたような自己免疫反応を生じやすいが、Th2は比較的生じにくい。経皮的にワクチンを投与する利点の一つは、Th2型の免疫反応が強くなることだという。今回の研究は、アルツハイマー病を発症するように繁殖したマウスに経皮ワクチンを用いたもので、自己免疫障害の誘発は認められなかった。
パッチ剤は、注射や経口投与するワクチンに比べて高齢の患者での服用遵守(コンプライアンズ)が大幅に向上するなどの利点も見込める。Morgan氏らは、経皮ワクチンの動物試験を続け、成功すればアルツハイマー患者を対象に試験を実施する予定。しかし「まだまだ予備段階のもの」という専門家の指摘もある。アルツハイマー病ワクチンについては、ほかにもさまざまな方法が研究されている。