高用量スタチンは危険かどうかで議論沸騰
コレステロール低下薬であるスタチン系薬剤を高用量で使用するとリスクが高いという論文が発表され、一部で強い批判を呼んでいる。米国では、心疾患リスク軽減のため積極的なコレステロール低下を推進する傾向があるが、英国医師会誌「British Medical Journal(BMJ)」6月3日号に掲載された報告では、高用量スタチンの危険性が指摘された。米国の専門家らは、この主張は高用量スタチンの効果および安全性を示した数多くの知見を無視したものと反論している。
米国コレステロール教育プログラム(NCEP)が昨年(2005年)示した見解では、心疾患リスクの非常に高い患者はLDLコレステロールを血液1.81mmol/l(70mg/dl)以下に抑える必要があるとしている。スウェーデンの研究者Uffe Ravnskov氏によると、これを達成するには欧米の成人のほとんどがスタチンを使用しなければならず、使用量は現在の8倍以上になるという。
これほどの高用量を使用すれば、心不全、筋肉痛および横紋筋変性(筋組織が破壊される疾患)、神経障害、癌(がん)などの副作用が増大することになるとRavnskov氏らは主張。また、臨床試験では高用量スタチンを用いても死亡率の低下が認められていない点や、副作用の報告が不十分である点も指摘している。
これに対し、米国心臓病学会(ACC)会長Steven E. Nissen博士は、高用量スタチンは安全であると真っ向から反論。いずれの副作用についても説得力のあるデータはなく、数多くの大規模臨床試験でリスクを上回る効果が示されているという。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)心臓学教授Gregg C. Fonarow博士もこれに同意し、Ranvskov氏らが自分たちの主張に有利な研究結果ばかりを取り上げ、スタチンの効果を示す研究を見落としていると指摘している。
しかし、今回の論文著者の1人であるカナダ、ブリティッシュコロンビア大学薬学部名誉教授Morley C. Sutter博士は、スタチンにより肝臓、筋肉のほか脳機能が侵される可能性もあるとし、予防目的のスタチン使用にはあくまで反対する姿勢。スタチンは世界で最も売れている薬剤であり、危険性が無視されるのは商業的利害のためとSutter博士は批判している。