体内で作られる抗生物質が尿路感染症を予防
尿路感染症から身を守るため、ヒトの体が自ら抗生物質を産生していることがわかったという。かつては、尿が尿路を通過することによって細菌の蓄積が防がれると考えられていたが、スウェーデン、カロリンスカ研究所微生物・腫瘍・生物学部の研究チームにより、体内で産生されるLL-37と呼ばれる抗菌性ペプチドが尿路感染症を予防していることが明らかにされた。
研究を率いたAnnelie Brauner氏によると、抗生物質の効かない細菌が大きな問題になってきているが、細菌が人体由来の抗生物質に対する耐性をもつことは極めてまれであるため、LL-37を従来の抗生物質治療の代替または補完として利用できる可能性があるという。
今回の研究では、健康な小児と尿路感染症の患児の尿中LL-37濃度を調べた。この結果、健康な小児ではLL-37濃度が極めて低かったのに対して、尿路感染症の小児の尿には高濃度のLL-37が認められた。このほか、LL-37が尿路および腎臓の上皮細胞で産生されており、細菌に侵されてから数分以内に合成・分泌されることもわかったという。この研究結果は医学誌「Nature Medicine」オンライン版6月4日号に掲載された。
女性の60%近くが生涯に一度は尿路感染症にかかり、そのうち20%は2回以上かかるという。また、小児が尿路感染症にかかると40%に腎臓の瘢痕化がみられる。「尿路感染症は患者にとって苦痛なばかりでなく、個人や社会の経済的負担にもなっている」とBrauner氏は述べている。今回の知見は、抗菌性ペプチドLL-37を増加させることで尿路感染症の発症を予防する、という新たな道を示すもの。「再発を繰り返す患者にとっては、攻撃が最大の防御」だとBrauner氏はいう。