長寿のための抗老化薬開発の可能性
2020年には、外来での血圧測定や視覚障害検査に加え、抗老化薬の注射が可能になっているかもしれない。Klothoと呼ばれる遺伝子から産生されるホルモンが、マウスの老化を抑制させるという新しい研究が、寿命を延ばすホルモン注射の実現に向けて一歩前進させることになりそうだ。
米科学誌「Science」8月25日オンライン版掲載の報告によれば、ヒトにもマウスのKlotho遺伝子とほぼ同一の遺伝子が存在し、「Klotho遺伝子の変異によってヒトの寿命が延長することを示す研究結果がある」という。
黒尾誠博士をはじめとする日本の研究者らは、1997年に老化による機能低下を促すマウスのKlotho遺伝子の変異型を同定した。現在、米テキサス大学サウスウエスタン医療センター(ダラス)病理学助教授である黒尾博士らは、今回の研究で、過剰活性型のKlotho遺伝子を組み込んだトランスジェニック(遺伝子操作)マウスを作成。その結果、通常のKlotho遺伝子をもつマウスよりも寿命が20%延長したという。
Klothoホルモンは、インスリン様成長因子1の代謝経路を遮断する作用を有し、虫、ハエ、マウスにおいて、この経路遮断による寿命の延長が認められており、ヒトでも同様なことが考えられる。
黒尾博士は「まだ動物実験の段階であるが、潜在的にヒトでのホルモン適用の可能性はある。しかし、ヒトの寿命が延長するかどうかは未だ明らかではない」と述べている。
Klothoホルモンに関して得られている知見は未だ十分ではなく、同博士らは現在、Klothoホルモン受容体について研究を進めている。長い道のりを経て期待通りの結果が得られれば、ヒトを対象とするKlothoホルモンの多岐にわたる医学的応用が期待できるという。