遺伝情報はDNA以外によっても伝達される
遺伝子そのものが受け渡されなくても、RNA(リボ核酸)によって世代から世代へ遺伝情報が伝達されることが、フランスの研究グループによって示され、英科学誌「Nature」5月25日号に掲載された。同様の現象は、これまで植物で確認されていたが、動物(今回はマウス)での証拠は初めてだという。
ヒトゲノム(ヒトが核内にもつDNAの1セット)に存在する何千もの遺伝子はすべて、両親からそれぞれ1コピーずつ受け継いだ2つのコピーが1対になっている。通常、1対のそれぞれの遺伝子は、いずれも互いに独立して機能する。しかし、まれに異なる染色体上にある遺伝子や、異なる世代の遺伝子間の影響がみられることがある。
このような奇妙な現象を説明するため、Nice Sophia Antipolis大学(フランス)の研究グループは、マウスのKit遺伝子に着目した。正常なKit遺伝子と変異型Kit遺伝子を1つずつ有するヘテロ接合マウスは、尾の先端に白い斑点がある。これを正常なマウスと交配させると、変異型遺伝子をもたないはずの子孫にも、依然としてヘテロ接合マウスと同じ斑点がみられる。
研究グループは、オスの精細胞の前駆細胞が変異型Kit遺伝子を有し、この遺伝子DNAから作られた変異型RNAが次の世代に伝達されるという仮説を立てた。この仮説を確かめるため、変異型RNAを含む組織から抽出したRNAをマウスの受精卵に注入したところ、斑点のある仔が生まれたという。
米コーネル大学(ニューヨーク州)農業生命科学部教授Paul Soloway氏は、この研究は、伝達されなかった遺伝子による遺伝形質が、RNAにより伝達され、発現するメカニズムがあることを示しており、「この現象がヒトの健康や疾患にも関わっている可能性は極めて高い」と評価している。