癌(がん)でも子供をあきらめなくてよい時代に
治療の進歩により、癌(がん)患者も子供を持てるようになったという報告が発表された。医学誌「CA: A Cancer Journal for Clinicians 」7/8月号によると、癌治療や生存率への悪影響なく、生殖能力を守る可能性が増大しているという。
癌治療の基本となる放射線療法と化学療法は、共に男女両方の生殖能力に影響を及ぼす。精巣癌や卵巣癌の手術では、子供をつくる可能性が失われることもある。しかし過去20年間で、ほとんどの癌での5年生存率が著しく向上し、それと同時に、治療に悪影響を及ぼすことなく生殖能力を保存する方策も向上した。
米Ochsner Clinic Foundation (ルイジアナ州)血液・腫瘍学部長Jay Brooks博士は、こういう議題が出てくるのは、癌治療後に生存し、かつ生殖能力について心配できる人の数が増えていることを示しており、喜ばしいという。一昔前には患者は生存していなかったので、こういう議題自体がなかった。
著者の1人、米コネチカット大学健康センターNeag総合癌センター長のCarolyn Runowicz博士は、技術の向上で癌への理解が深まり、よりいっそう温存療法が可能になっているという。現在、卵巣癌の女性は子宮と卵巣の1つ、あるいは少なくとも卵巣組織を残せる。従来の戦略は、卵巣を休止状態にする、あるいは卵細胞を凍結して残すというものだったが、成功率は低かった。新戦略は、卵巣組織の一片を凍結し、癌治療が完了した後に再移植するものである。
今年(2005年)6月には、高用量の化学療法により卵巣を破壊された28歳のイスラエルの女性が、凍結しておいた自分自身の卵巣組織の移植を受け、健康な女児を出産した。この技術の最初の成功例で、Runowicz博士は「トンネルの出口に光が見えた」と言う。
精巣癌の男性では、将来子供を持ちたい場合、精子の凍結保存が推奨されている。しかし手順と技術が比較的簡単にも関わらず、実施する男性は少ない。癌の診断を受けると、それが緊急事態で、生殖能力のことまで考えず、精子保存などというのは、治療に不必要な遅れをもたらすものに思えるのだという。癌治療が終わった後で「やっておけばよかった」と思うのだが、その時には遅すぎる。
Runowicz博士は、癌は突発事故のように起きるわけでも、また多くの場合、緊急事態でもないので、もし医師が言い出さなくても、患者自身が(精子凍結について)調べて、提案する時間はあると忠告している。