癌(がん)細胞が免疫系の攻撃をかわす仕組みを解明
癌(がん)細胞が免疫システムから逃れる鍵となる機序が明らかにされた。免疫細胞の攻撃を妨げるような環境を作るのは、インターロイキン-23(IL-23)と呼ばれる物質だという。Schering-Plough Research Institute(カリフォルニア州)のMartin Oft博士およびRobert Kastelein氏らによるこの研究結果は、「Nature」オンライン版5月10日号に掲載された。
Oft博士によると、研究チームは長年、組織の慢性炎症と癌との関連についての研究に力を注いできた。これまでは炎症性サイトカインの1つ、インターロイキン-12(IL-12)の関与が注目されていたが、約5年前、Kastelein氏らがIL-12と構造が似たサイトカインIL-23を発見し、「IL-12が原因とされてきた慢性炎症が、実はIL-23の仕業であったことが徐々にわかってきた」という。
今回の研究では、IL-12またはIL-23のいずれかを欠損したマウスで癌誘発を試みた。この結果、IL-23をもたないマウスでは腫瘍が誘発されなかったという。正常なマウスには予測された比率で癌が発生し、IL-12欠損マウスには予測より高い比率で癌が発生した。この結果は、以前は癌の元凶と考えられていたIL-12が、実はIL-23と相殺して癌を防いでいる可能性を示すものである。
では、その機序はどのようなものか。体内の免疫システムは、悪党である癌細胞を常に警戒しており、見つけ次第破壊している。しかし、別の実験でKastelein氏らは、IL-23が増大すると「キラーT細胞」が悪性細胞に近づけなくなり、癌が成長する時間と空間を与えてしまうことを突き止めた。一方、IL-23を抑制するとT細胞が一気に腫瘍部位に戻り、忙しく癌細胞を追跡し始めることもわかった。
このようなIL-23の役割が明らかになったことにより、免疫システムを利用した効率的な抗癌治療の探究に新たな道が開けると思われる。Oft博士によれば、IL-23を抑制ないし操作することにより免疫システムを強化し、T細胞が無防備な癌細胞に到達できるようにする方法を考案中とのことで、非常に期待できるものだという。