慢性疾患の診察が家庭医の限界を超えたものに
プライマリーケア医(家庭医など)はすでに働きすぎだが、慢性疾患患者に質の高い医療を提供するには家庭医の時間が足りないことが、米医学誌「Annals of Family Medicine」5/6月号で報告された。
米デューク大学(ノースカロライナ州)医学センター教授のTruls Ostbye博士らは、糖尿病、うつ病、喘息、高血圧症などよくある10の慢性疾患の診療に必要な時間を算定するため、 2,500人の患者を受け持つ仮想家庭医を設定した。疾患の現れ方は米国勢調査局のデータに基づいて想定され、各患者には1疾患あたり1回の通院で10分間が当てられた。
ガイドラインに示された年間通院数に基づいて算定すると、医師が要する時間は疾患がコントロールされていれば1日3.5時間ですむが、コントロールされていないと10.6時間かかると判明。これは医師の通常の勤務時間を27%超過しており、医師はさらに予防医療や救急治療も行わねばならない。
いくつもの慢性疾患を抱える患者数の増加が問題で、特に高齢者でその傾向が強いが、ガイドラインはその点を考慮せずに、個々の疾患ごとに書かれている点が問題だという。米ニューヨーク大学医学部教授のJames Underberg博士も、例えば勃起不全では、かつては3分間だった診療が、現在ではうつ病、高血圧症その他の疾患との関連から45分かかること例に挙げ、こういう負荷はすべて家庭医にのしかかり、「毎日の診療をガイドライン通りに全部実施すると医師は家に帰る時間もなくなる」という。
Ostbye博士らは改善策として、医師が仕事の一部をアシスタントなど他のスタッフに委任し、患者自身にも協力してもらうことを勧めている。例えば糖尿病患者を診る日を週に1日設定する「グループ診療」方式が有望だという。医師は個々人の診察とは別に、生活習慣や投薬治療についての説明をまとめて行える。
同誌に掲載の別の研究も、同様の結果を示した。カナダUnite de Medicine de Famille(ケベック州)のMartin Fortin博士らが医師21人の患者約1,000人のデータを調べたところ、90%が1つ以上の慢性疾患を、45〜64歳では約半数が5つ以上の慢性疾患を抱えていた。Fortin博士らも、治療ガイドラインは複数の疾患を抱えている患者数が増加していることを反映すべきであると指摘している。