太るのは“はさみ様”酵素が脂肪細胞の成長スペースを作るため
脂肪を摂るとなぜ太るのか。その答えの一つは、脂肪細胞が周囲の組織へ膨張していくのを助ける酵素にある、という知見が報告された。マウスを用いた予備段階の研究で、この酵素がヒトでも同じような働きをもつかどうかは不明だが、「可能性は極めて高い」と研究を行なった米ミシガン大学分子医学遺伝学の研究員Tae-Hwa Chun博士は述べている。新しい肥満治療への扉を開く可能性を示したこの知見は、細胞生物学誌「Cell」5月5日号に掲載された。
脂肪は、今日ではあまりかんばしくない評判をもつが、本質的には食物のエネルギーを効率よく貯蔵する手段であり、ヒトも含めて多くの動物が生きる上で極めて重要である。しかし過剰摂取は、さまざまな健康問題をもたらす。Chun氏らは、ある酵素が血管の形成に及ぼす影響について研究していたとき、偶然今回の発見に至ったという。遺伝子組み換えによりこの酵素をもたないマウスを作ったところ、このマウスが皆やせこけていることに気づいた。
Chun氏によると、「膜結合型メタロプロテイナーゼ(MT1-MMP)」と呼ばれるこの酵素が「はさみ」のような働きをして、脂肪細胞を取り囲むコラーゲン線維の網を切り開くらしい。このおかげで脂肪細胞は膨張し、周囲へ広がることができる。この酵素を欠損したマウスでは、脂肪細胞の占める量が通常の5%であったことから、MT1-MMPを阻害することにより脂肪を95%減らすことができる計算になる。しかし、ヒトを対象とする研究はまだ何年も先になる見通しで、この酵素を阻害する薬剤も見つかっていない。
この「痩せた」脂肪細胞が、生体の代謝にとってどのような意味をもつかは、いまだ明らかになっていない。研究チームは、MT1-MMP欠損マウスでは、体が脂肪を燃焼する際に重要な役割を果たすレプチンというホルモンが、ごくわずかしか産生されない点も指摘している。今後の研究では、マウスのMT1-MMPを完全に消失させずに、濃度を低下させるとどうなるかを検証する予定だという。