アルツハイマー病は糖尿病の類似疾患
アルツハイマー病が進展するにつれて、脳内での細胞死や神経原線維変化など、その原因が解明されていなかった所見の多くは、脳内のインスリン産生能の低下などインスリン情報伝達の異常に起因するという研究結果が、医学誌「Alzheimer’s Disease」11月号に掲載された。このことから、アルツハイマー病が神経内分泌疾患とほぼ同じものか、あるいは別のタイプの糖尿病であることが考えられるという。
米ロードアイランド病院の神経病理学者でブラウン大学医学部病理学教授のSuzanne M. de la Monte氏らは、脳でのインスリン産生と、アルツハイマー病患者ではその生産能が低下していることを報告しているが(3月7日付既報)、今回はさらに「Braak病期(Braak Stages)」に基づいて、異なる病期に診断されたアルツハイマー病患者45例から生検で脳組織を採取し、アルツハイマー病を発症していない人から採取した組織標本と比較した。
アルツハイマー病で主に損傷を来す前頭葉のインスリン値およびインスリン受容体の機能を評価したところ、アルツハイマー病初期段階で脳内のインスリン値とそれに関連する細胞受容体の量が急激に低下し、重症度が進むにつれ、インスリン値が低下し続けることが明らかになった。また、アルツハイマー病の指標となるアセチルコリン値の低下が、インスリン値の減少とインスリン様成長因子の機能低下に直接関連することが判明した。
病期が最も進展した段階では、インスリン受容体が正常脳に比べ約80%低下していた。これらに加えて、インスリンとインスリン様成長因子-Iが細胞受容体に結合する能力が失われることなどが、細胞死につながることが明らかになった。
de la Monte氏は「認知能力に関わる神経伝達物質、エネルギー代謝の低下、進行期の特徴である神経原線維変化をもたらす異常など、今回の研究成果は、こうした幾つかの概念を1つにまとめ、アルツハイマー病がまさに”3型糖尿病”と呼ぶことができるものであることを示している」という。
米インディアナ大学加齢研究センター、アルツハイマー病・神経精神疾患センター所長代理で精神医学教授のHugh C. Hendrie博士は、今回の研究は、糖尿病治療薬がアルツハイマー病の治療に用いることができる可能性を裏づけるものとして評価しながらも、「アルツハイマー病の危険因子としては、高血圧や炎症など多くの因子がある。このため、現時点でアルツハイマー病を糖尿病などの内分泌疾患の枠にはめ込むのは時期尚早であると考える」と述べている。
一方、米コロラド州立大学生物医学科学部教授のDouglas N. Ishii氏は、ラットの研究で、インスリン様成長因子を注入すると学習能力および記憶力のいずれの低下も抑制できることを明らかにしており、インスリンおよびインスリン様成長因子がアルツハイマー病の進行を抑えるのに重要な役割を果たすとみている。