スローな音楽は心拍数を安定させる
音楽が心臓を静める鍵は、そのテンポ(速さ)にあるらしい。ゆっくりとした音楽は体をリラックスさせ、音楽の休止がさらに心拍リズムを調整し、循環パターンを向上するという報告が、英国医学誌「BMJ」発行の「Heart」9月30日オンライン版に掲載された。
英オックスフォード大学のPeter Sleight博士らは、音楽家12人と非音楽家12人を対象に、6タイプの音楽への生理学的反応を調べた。用いた音楽は、ラーガ(インドの古典音楽)、ベートーベンの第九交響曲(ゆっくりとしたクラシック音楽)、ラップ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、ビバルディ(速いクラシック音楽)、テクノ音楽、アントン・ウェーベルンの曲(ゆっくりとした12音音楽)。被験者は各自ランダムな順序で6タイプの音楽を2分間ずつ聴き、次に4分間ずつ聴いた。どちらの場合も、途中2分間の休止がランダムに挿入された。
その結果、テンポが速く簡単なリズム構成の音楽では呼吸、血圧、心拍数が上昇した。音楽が休止すると、心拍数、血圧、呼吸が減少し、時には音楽開始時よりも低くなった。ゆっくりとした音楽は心拍数を下げ、最も低下したのはラーガ音楽のケースだった。休止による効果は音楽の種類に関わらず生じ、音楽に呼吸を同調させるよう訓練されている音楽家で強く生じた。音楽の好みは音楽のペースほど重要ではなかった。
これまでの研究では、ホメロスの「オデュッセイア」のようなリズミカルな詩を大きな声で読むことや、カトリックのロザリオの祈り、ヨガで使われるマントラで心拍数と呼吸数が同調することが知られていた。また音楽が神経障害のある患者のストレス減少、運動能力・運動機能の向上に効果があることが示されていた。しかし異なるタイプの音楽やその提示方法の自律神経系や心血管系、呼吸機能への影響を比較した包括的研究はなかった。Sleight博士らは、音楽が医療現場で呼吸を調整するのに役立つのではと推察している。
米Metropolitan Jewish Health SystemのVincent Marchello博士は「ストレスは心血管系疾患に影響する。音楽はストレスを減少するばかりでなく、治療効果を増強もする」と述べている。同博士らは、興奮したアルツハイマー病患者の行動を音楽で静めるのに成功しており、心臓手術後のリハビリテーションでも音楽により治療効果が高まり、治療期間が短縮できるという。