人工関節置換術で増えつつある最小侵襲手術
米国では加齢、関節炎、けがにより、毎年32万5,000人以上が人工膝関節、17万2,000人以上が人工股関節の置換術を受ける状況にあるが、治療技術の進歩により、傷が小さく入院日数や回復期間が短い手術方法を用いる医師が増え、仕事が忙しくて長く入院できないような人への恩恵となっている。
米Baylor大学医学部(テキサス州)のJay Mabrey博士によると、人工関節置換術は「従来型」「低侵襲手術」「最小侵襲手術(MIS)」に分類される。皮膚の切開部はMISで最も小さく、従来型で最も大きい。MIS、低侵襲手術では、特別に設計された小型の器具を用い、外科医はテレビモニターを見ながら手術を行う。現在ほとんどの外科医は切開部が小さい手術を行うようになっており、その一部はMISを行う。
人工股関節置換術の場合、従来型では切開部は30〜35センチで血液も大量に失われるが、低侵襲手術では切開部は20センチ、MISでは10センチですむ。傷が小さく筋肉や線維へのダメージが少ないので回復期間も短く、麻酔技術の進歩もあって術後24〜36時間で退院できる患者もあるという。職場復帰への期間も、従来型手術では6週間以上だが、低侵襲手術では3〜4週間、MISなら10日〜2週間という例もある。
しかしMISにはマイナス面もある。術野がはるかに小さく、医師は人工関節の位置などを直接見ないで手術する上に、手術時間もたいてい長くかかる。
Baylor大学のMack Lancaster博士は、すぐに仕事に復帰せねばならないなど、患者側に重要な理由がない限り、MISを勧めていない。MIS適用の最もよい対象は、健康で平均的体重の患者だという。Mabrey博士も、過体重の患者では腰周りの脂肪が多すぎて、医師は何をしているのかがよく見えず、高齢の患者も、骨粗鬆(しょう)症が多く、骨折しやすいので、MISのよい対象ではないという。
ただし、もし担当医からMISには向かないと言われたら、その理由を聞いてみるのはよいことであるという。MIS対象者として合格である場合は、担当医がMIS技術に熟達しているかどうかを聞くことを勧めている。