胎児由来の皮膚移植片で熱傷が早期に治癒
胎児の皮膚細胞由来の移植片を用いることにより、従来の移植術に比べ小児の熱傷の治癒速度が速まることがローザンヌ大学(スイス)の研究で明らかにされた。医学誌「The Lancet」オンライン版8月18日号に掲載された。
報告によれば、胎児の皮膚標本は第14週で妊娠が中断した女性から採取したもの。女性からは書面による同意を得て、倫理委員会の審議を受けた。熱傷治療のための移植片「数百万個」を作成するのに必要な胎児の皮膚は、わずか4センチ角であるという。同大産婦人科教授のPatrick Hohlfeld博士らは、胎児の皮膚移植片を重度の熱傷を来した小児8例に用いたところ、「全例とも移植部位に肥大(過成長)をみることなく、美容的にも機能的にも申し分のない結果が得られた」という。
米国熱傷協会(ABA)によれば、(米国では)医学的処置を必要とする熱傷は年間110万例に上り、このうち入院を要する重症例は5万例である。重度熱傷は、患者自身の皮膚を移植する自家移植によって治療されることが多い。以前は広範囲にわたる熱傷は、十分な皮膚移植片が得られないため治療が不可能であった。近年では、ウシのコラーゲンなど有機物質を内層に、プラスチック製保護材を外層に用いた人工皮膚が開発されているが、この人工皮膚は手術までに数週間を必要とする。
米テキサス大学サウスウエスタン医療センター(ダラス)外科教授のGary Purdue博士は、米国ではすでに生後1日の新生児の組織を用いた “Dermagraft” と呼ばれる、今回の皮膚とほぼ同じ製品が市販されているという。Purdue博士は、熱傷をはじめとする複雑な創傷の治療に理想的であるのは「即時に用いることができ、安価で瘢痕を残さないもの」であり、今回の研究は、その目標に向かって一歩前進したことを示すものであるという。