喘息治療薬に重度心不全の改善効果
気管支拡張作用をもつ喘息治療薬で、筋肉増強作用も有するベータ2アドレナリン受容体刺激薬クレンブテロールに、重度心不全患者の骨格筋容量と強度を増加させる効果のあることを示した米国での予備的研究結果が、マドリードで開かれた国際心肺移植学会(ISHLT)で報告された。臓器不足に伴い、移植手術へのつなぎとして人工心臓ポンプが用いられているが、その代替医療としての可能性が注目される。
米アルバート・アインシュタイン医科大学モンテフィオーレ医療センター(ニューヨーク市)のSimon Maybaum博士らは、英国の研究で心移植待機中の人工心臓ポンプ装着の心不全患者において、クレンブテロールが有意に心機能改善をもたらしたとの報告を受け、米国で未承認の同薬に対して、米食品医薬品局(FDA)から高用量を用いた予備的研究の許諾を得て、臨床試験を行った。
臨床試験では、人工心臓ポンプ装着患者への高用量クレンブテロール投与と、同ホンプ未装着の心不全患者(中等度症例)に対する低用量投与による心筋機能およびQOL(生活の質)改善効果の2件について検討した。試験完遂例は7例。
その結果、クレンブテロール は骨格筋容量と強度の増加をもたらし、喘息治療や筋肉増強に用いられる常用量の10〜15倍量でも安全であることが確認された。心機能の有意な変動は認められなかったが、今回の研究は心機能を検討するようにはデザインされていなかった。低用量の結果は、盲検化がまだ継続されており、明らかでない。
次のステップとして、英国で認められた人工心臓ポンプ装着患者での治療効果を米国の多施設で追認する試験が予定されている。英国の研究では、患者の半数以上で人工心臓ポンプが不要となり、心臓移植の必要性がなくなったという。
米国心臓協会(AHA)のスポークスウーマンで米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医学教授のAnn Bolger博士は、今回の研究結果に対して、初期のポジティブな結果が継続するとは限らないとした上で、「心不全患者は、すべの治療に対して非常に広域な反応を示すことから、極めて慎重にならなければならない。状況によっては、このような薬剤は、不整脈、血圧変動、脳卒中などをもたらす危険性をはらむ。患者を気分よくさせる薬剤が早期死亡を増加させることもある」と懸念を示す。
Maybaum博士も「心不全のような治療の難しい疾患に劇的な効果が認められる新しい結果が得られた場合には、興奮と懐疑の混ざった状態で研究に挑むことになる。結論については楽観的であるが、どちらに転ぶかは不明だ。ただ、われわれは、心臓を取り替えるのではなく、治すことが可能な時代にいるのは確かだ」と述べている。