子供の抗うつ薬治療は自殺リスクを高めるか?
うつ病は子供や思春期に多くみられるが、抗うつ薬の使い方の指針に科学的根拠が欠け問題が多いと指摘する報告が、英国医学誌「Lancet」9月10日号に掲載された。
米ピッツバーグ大学(ペンシルベニア州)医学部のNeal D. Ryan博士によると、大うつ病は6〜12歳の約1〜2%、ティーンエージャー(13〜19歳)の2〜5%にみられ、子供とティーンエージャー全体の14〜25%が大人になる前に大うつ病のエピソードの少なくとも一つを経験するという。
子供時代のうつ病は単なる一時的現象ではなく、さまざまな障害が長く続き治療を要する疾患だが、子供についての研究が少なく、大人のうつ病に比べて治療に関する知識が欠けている。精神療法は2つあるが、投薬療法に比べどの程度効果的かを示す研究がなく、子供に抗うつ薬が効くのかどうかの研究も十分にはなされていないという。
最近、パキシル(一般名:パロキセチン)、Prozac(fluoxetine)、Zoloft(sertraline)などの抗うつ薬を服用している子供で自殺行動リスクが高いというデータが出ており、これら薬剤の服用が疑問視されてきている(編集部注=日本国内未承認薬は英文表記)。米国食品医薬品局(FDA)が行った最近の解析でも、この点が明確にされなかったという
薬剤を用いると自殺に関するリスク増加があると指摘するデータがある一方で、薬剤療法でうまくいくというデータもあり、子供に最初に精神療法と薬剤療法のどちらを用いればよいかが未解決の問題だとRyan博士は述べている。
米ノースカロライナ大学のRobert N. Golden博士は、精神療法は非常に効果的とする一方で、抗うつ薬も価値があると考え「薬剤療法を制限すべきでない」と述べている。抗うつ薬を服用する子供で自殺念慮が増加するという点に世間の注目が集まっているが、薬剤療法で自殺を遂げるケースが減少している点も忘れてはならず、「重要なのは命を救うこと」だという。
Ryan博士も、投薬療法にはリスクもあるが、薬剤を用いない場合のほうが、コントロールされた状況下で薬剤を与えた場合よりリスクははるかに大きく、重症うつ病の子供では薬剤療法に利点があると考える。大人であれ子供であれ、薬剤を与えてそのまま放っておかず、経過を注意深く観察することが必要だと述べている。