新しい薬物療法につながる肥満のメカニズム解明
多くの成人が直面している、過食による体重増加の問題の鍵を解く画期的な研究が、米国科学アカデミー発行の「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」オンライン版11月4週号に発表された。
米テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターのRoger H. Unger博士らは、ラットを用いた研究で、レプチンが作用しなくなることが、過食による体重増加を招くことを発見した。レプチンは脂肪細胞で作られるホルモンで、脂肪細胞中の脂肪を燃焼する働きがある。過剰に餌を与えられ肥満となったラットでは、脂肪細胞の表面からレプチンの受容体が消失しており、そのためレプチンが作用しないという。
この理由は進化の面から説明できるという。現在では「肥満は悪いこと」とされるが、進化上、肥満は飢饉(ききん)を生き延びる唯一の手段で、脂肪蓄積を最も効果的に行えた人が生き延びたのだとUnger博士は述べる。
レプチン受容体を消失しないように遺伝子を改変したラットを用いた別の実験では、ラットに過食させても、脂肪細胞はレプチン受容体を失わなかった。脂肪細胞中の脂肪をレプチンが燃焼するので太らない。肥満防止の鍵は、このレプチン受容体消失を防ぐ点にあるという。
Unger博士らによるヒトでの初期研究では、ラットの場合と同様の結果が得られており、脂肪細胞からのレプチン受容体消失を防ぐ薬剤開発に応用できるという。ただしUnger博士は、肥満を防ぐより簡単な方法は「単に口にたくさん食べ物を入れないこと」と述べ、今回の知見を、自制心の代わりに利用するのは疑問だという。
他の専門家は、肥満治療薬の開発には、何がヒトを肥満にするかの理解が必要で、レプチン不活性化のメカニズムを示したこの研究を画期的なものと賞賛している。