ボトックスで書痙(けい)が改善
しわ取り効果で知られるボトックスが、書痙(けい)の治療にも有効であるとするオランダの研究が、医学誌「Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry」12月20日号に掲載された。書痙は、字を書くなどの手作業の際に不随意に生じる指や手あるいは腕の筋収縮で、罹患率は10万人に3〜7人と比較的少ないものの、自尊心(self-esteem)の評価や社会生活にネガティブな影響を及ぼすことがある。有効な治療薬はなく、緩和療法、催眠療法、鍼などの治療法にも限界があるとされていた。
アムステルダム・アカデミー医療センター神経学のJose Kruisdijk博士によると、今回の研究は、書痙に対するボツリヌス毒素の効果を検討した初めての大規模な二重盲検無作為化プラセボ対照試験。このほか、非盲検試験やいくつかの小規模無作為化対照試験でも肯定的な結果が出ているという。この研究は、書痙に対するボツリヌス毒素(筋肉内)注射の効果を十分に裏付けるものだとKruisdijk博士は述べているが、別の専門家は、この研究が比較的小規模である点を指摘し、一論文のみでは一般化するのは難しいとしている。
A型ボツリヌス毒素は、ボツリヌス菌が生成する蛋白(たんぱく)複合体で、食中毒の原因にもなる毒素だが、精製した少量のボツリヌス毒素には、筋収縮を促すアセチルコリンの分泌を阻害する作用がある。この薬剤は、1998年に「弱視」などの眼疾患の治療薬として初めて承認され、続いて首や肩の収縮をもたらす運動障害の治療用に米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けた。心臓発作患者の回復や、小児の脳性麻痺(まひ)の治療にも利用されている。
今回の研究では、書痙患者40人を対象に、ボトックスおよびプラセボを無作為に割り付けて注射し、12週間にわたり観察。ボトック群では20人中14人(70%)で有意な改善が認められ、被験者は治療の継続を希望したが、プラセボ群では19人中6人(31.6%)にとどまり、1人は試験を中止した。1年後、参加者の50%がボトックス注射を継続して受けており、この治療を有効だと考えていた。
一部に軽い手の脱力がみられたが、一時的なものだった。ボトックスにはこのほか、効果の持続期間が短いという欠点がある。今回の研究では、書痙の改善がみられた期間は3〜18カ月、平均無症状期間は4.5カ月であった。ボトックス治療では約3カ月毎に注射を繰り返す必要があるという。