コンピュータ化でも院内での投薬ミスは減らず
医師や看護師、薬剤師が行う治療薬処方の安全性を改善するために開発された院内コンピュータ医療システムのソフトウエア。このようなソフトウエアの使用例で、投薬ミスが続発しており、期待されたほどに効果が得られていないことが、新しい研究で明らかになった。
医学誌「Archives of Internal Medicine」5月23日号掲載の退役軍人局ソルトレイク・シティー医療システム(Veterans Administration Salt Lake City Health Care System)の医師、Jonathan R. Nebeker博士らの研究によると、「世界で最高度にコンピュータ化された施設でも、入院患者において非常に高い副作用の発現率を認めた」という。
Nebeker博士らの研究チームは、退役軍人関連の医療施設937において、483件の臨床的に有意な副作用発現事故を認めた。これは全患者の25%にあたり、このうちの9%は重篤な症状を来し、残り91%は中等度で、特別なモニターリング、即時の投薬中止、投薬量の調整が必要であった。これらの施設では、投薬ミスを予防するための特別コンピュータシステムを導入していた。投薬ミスの最も一般的な原因は、スタッフの一部が、薬剤間の相互作用を見落としていたり、間違った投与量や薬剤を処方していたことにあった。
Nebeker博士は、システムがさらに洗練され、相互性をもたせる必要あると指摘する。医師の決定により直接的に関与し、患者データに基づいて薬剤の相互作用による副作用発現の確率や、患者に合った投与量を医師に告げることなどである。
専門家の一人は「コンピュータは万能薬ではなく、現段階ではまだ人の手を必要とする」と指摘。別の専門家は「コンピュータ化された処方システムは価値のあるものだが、特殊な誤りを防止するためには十分に機能するように適合させる必要がある」と述べる。
さらに「患者の安全性を最優先するという目標を定めて、真剣に取り組むことが重要」と指摘する専門家もいる。患者の安全性を技術的な問題として捉えがちだが、実際は、安全性の獲得には医師および他の医療従事者間の相互協力関係をいかに高度に作り上げるかにある。
米国医療研究所 (IOM)によると、米国の医療の安全性は目標あるいは理想とされるレベルにはまだ達しておらず、院内では毎年、少なくとも4万4,000人、多く見積もって9万8,000人が、避けられるべく医療ミスにより死亡している、と報告している。