受精卵を用いずにES細胞作製に成功
韓国の研究者らが、患者のDNAを用いて胚性幹細胞(ES細胞)11株の作製に成功した。ソウル国際大学教授のWoo-Suk Hwang博士らによるこの研究は、受精胚ではなく核を除去したヒト卵子を用いた点が注目されており、専門家はこの種の研究につきものの倫理的な論争は回避できるとみている。研究の詳細は、科学誌「Science」5月19号に掲載された。
Hwang博士らは、女性18人から卵子185個を採取するとともに、脊髄損傷、若年性糖尿病、遺伝的に免疫障害がみられる患者11例から皮膚細胞を採取した。さらに皮膚細胞から核を取り出し、あらかじめ核を除去しておいた卵子に核移植。卵子は胚盤胞の段階にまで発育し、その内部細胞塊からES細胞を得るのに成功した。
共同研究者である米ピッツバーグ大学医学部産婦人科・生殖科学科のGerald Schatten氏は「この技術を用いれば、世界中のさまざまな患者から皮膚細胞を得て、疾患および民族の多様性に完全に対応可能な細胞株の作成ができる」という。この技術の主な利点は、ドナーとして必要とされる女性の数が少ないことであるほか、初回免疫学的検査によって、こうした幹細胞株が皮膚細胞のドナーと免疫学的に一致したことから、将来的に移植組織に対する拒絶反応が回避されることが期待される。
一方、米スタンフォード大学生物医学的倫理研究センター所長のDavid Magnus氏は、卵子のドナーを取り巻く問題を指摘し、「研究参加者に関する新たな枠組みを考える必要がある」という。また、「治療目的のクローン技術」という表現に対して、誤った方向に進展する恐れを懸念して「ES細胞研究」など別の表現を提唱している。もっとも、倫理的にはこの手技の方が現実的であるとの見方が強く、Magnus 氏は「体外受精卵を用いる方法よりも体細胞の核移植の方が妥当な方法である」とみている。