医薬品の消費者向け直接広告が医師の処方に影響
DTC広告((医療用医薬品の消費者向け直接広告)が医師による薬剤処方に影響していることを示した新しい研究が、米国医師会雑誌「JAMA」4月27日号で報告された。DTC広告は、2003年には米国で32億ドル(約3,456億円)に達しており、うつ病のようになかなか診断がつかない疾患の患者が治療を受けるきっかけになるという意見がある一方で、必要のない薬剤の服用につながるという批判もある。
米カリフォルニア大学ディビス校(USD)一次医療保健サービス研究センター所長のRichard L. Kravitz博士らは、患者が抗うつ薬を希望した場合の医師への影響を調べるため、俳優が6通りの「標準化された患者」を演じるランダム(無作為)化試験を行った。
演じられた患者はすべて中年白人女性。症状については、大うつ病またはうつ病の傾向を伴う適応障害(ストレスの多い生活による一時的な状態)で、「抗うつ薬パキシル(一般名:パロキセチン)のテレビ広告を見たと告げパキシルの処方を要望する」「普通に薬を要望する」「薬を要望しない」という、医師に対する3つのシナリオが用意された。パキシルは他の抗うつ薬よりも高価で、調査当時大きく宣伝されていた。
抗うつ薬を処方されたのは、大うつ病の場合、普通に薬を要望した患者では76%、パキシルを要望した患者では53%、薬を要望しなかった患者では31%だった。このうちパキシルを処方されたのは、それぞれ2%、27%、4.2%。一方、適応障害では、パキシルを要望した患者で55%、一般的要望で39%、要望なしでは10%で、パキシルを処方されたのは、37%、10%、0%であった。試験結果から、患者の要望が医師の処方決定に大きく影響し、その影響力は大うつ病の場合は一般的な要望でやや強く、適応障害では商品名指定でやや強いことが示された。
しかし、薬が必要な人への処方を増やし必要ない人には影響を与えない、という製薬会社側の希望にかなっておらず、結局のところDTC広告は最良の治療にはつながっていないという。著者らは、製薬会社はDTC広告をもっと教育的な内容にし、売らんかなの姿勢を弱めるように勧め、国や州政府も消費者がバランスのとれた情報を得られるような方策を立てるよう提言している。
「JAMA」の論説筆者、米ワシントン大学(シアトル)医学助教授のMatthew F. Hollon博士は、ニュージーランドでDTC広告を禁止する法案が今年(2005年)通過すれば、米国はDTC広告を許可し、薬剤価格の上昇に制限がなく、医療に対する国家保証がない先進国で唯一の国になる点を指摘。患者が処方薬に世界で最も高い金額を支払っている状況で、DTC広告に費用をかけることに疑問を投げかけている。