食肉防腐剤がヒトの心臓を救う
食肉の防腐剤として最もよく知られる亜硝酸ナトリウムに、心臓発作後の心筋壊死を保護する作用のあることが、医学誌「Journal of Clinical Investigation」5月号掲載の研究で明らかにされた。米国立心肺血液研究所(NHLBI)心血管科血管治療部門部長のMark Gladwin博士によれば、動物を対象とした試験を重ねた結果、体内には緊急時に一酸化窒素(NO)に変換される亜硝酸ナトリウムが少量蓄積されていることが判明した。一酸化窒素は血管拡張作用により血流量を増大させることが知られている。
Gladwin博士は、2000年にヒト体内で血液が動脈から静脈に循環する際に、亜硝酸塩が体内で消費されているかのように亜硝酸濃度が低下することを発見。亜硝酸塩は強力な血管拡張物質である一酸化窒素に変換することから、体内に一酸化窒素を送達する方法として亜硝酸ナトリウムを用いることを考えついたという。
マウスを対象とした一連の実験の結果、亜硝酸ナトリウムの少量注入で心臓発作による壊死組織が67%軽減。損傷を引き起こさせた肝組織のダメージも軽減した。この保護作用は、亜硝酸ナトリウム濃度がごくわずかに上昇する程度の、ごく少量注入した際にのみ認められた。投与用量は、循環濃度をかろうじて上回るくらいの微量が適していた。Gladwin博士は「われわれは、生体が自らを防御するために用いる自然な過程を偶然に発見した」という。
同博士らは、今後、ヒトの生体に類似しているブタでの成果が確認されれば、ヒトの心筋梗塞症例での検討を予定している。臨床応用の構想としては、心臓発作患者が救急室に搬送され、血管形成術など動脈を開通させる治療の施行後数分以内に亜硝酸ナトリウムを少量注入するというもの。血流再開後、損傷を受けた心筋のサイズを軽減するために少量投与することを考えている。