地域社会にはびこるブドウ球菌感染症
抗生物質(抗菌薬)に耐性を示し、病院内での日和見感染症(免疫力の低下した患者や高齢者に感染しやすい疾患)の原因菌でもある黄色ブドウ球菌が、院内から外に出でコミュニティー(地域社会)に入り込むだけでなく、コミュニティーを発生源として感染範囲を拡大していることが、医学誌「New England Journal of Medicine」4月7日号掲載の2件の調査結果より明らかにされた。
黄色ブドウ球菌は健常者の皮膚や鼻に頻繁にみられる細菌であり、時に感染症を引き起こす。この細菌がメチシリンなどのβ-ラクタム系抗生物質に対して耐性を獲得したものがメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)と呼ばれる。
1件目は、米国疾病管理センター(CDC)/感染症センター(NCID)医療疫学専門家のScott Fridkin博士らの調査で、アトランタなど3つの地域で発生したMRSA感染症のうち8〜20%が院内ではなく地域社会で発生したものであった。同博士は、この結果は医師に対して地域社会におけるMRSA感染症を念頭に置く必要性を呼びかけるものであるという。
2件目は、Harbor-UCLA医療センター(ロサンゼルス)のMRSA感染症患者843例の医療記録を見直した研究。生命を脅かす疾患として知られる壊死性筋膜炎の発症率に着目したもので、最近、MRSAによる発症の増加傾向が認められている。コミュティーで発生したMRSA起因の壊死性筋膜炎は14例認められたが、死亡者はおらず、死亡率が33%といわれる他の病原菌に起因するものと比べて攻撃性が低いことがわかった。こうしたMRSAによる感染症はきわめて急速に広がっているものの、それを見分けるのは困難であるという。
ニューヨーク大学医療センター臨床微生物学および免疫学部長のPhilip Tierno博士は、こうした感染症を予防するためには、皮膚に何らかの傷を負った場合には必ず消毒薬と絆創膏を用いることを勧める。また、サッカーなどの接触スポーツを行ったり、他人と至近距離で接した場合には特に手洗いが重要であり、「水がない場合には、アルコールジェルを用いるとよい」という。スポーツ用具など個人で用いるものは他人との共用を避け、感染した場合には、直ちに受診することを勧めている。