思考障害は高齢者の転倒を増加させる
歩行するには一般に考えられる以上に思考力が求められ、少なくとも高齢者においては認知力の低下が移動をより困難にする可能性のあることが、米アルバート・アインシュタイン医科大学(ニューヨーク州)の研究で明らかにされた。
米医学誌「Neuropsychology」3月号掲載の研究では、脳が歩行にどのような影響を与えるかを評価するために、70歳以上の高齢者186人を対象に認知力テストを実施。テスト後、特殊なデザインのマットを敷いた廊下を歩く様子を観察した。
その結果、最も速く歩く人は、記憶力や計画能力などの認知力テストのスコアがより高かった。また、歩行しながら同時にアルファベットの文字を一つおきに言語表現するケースを除いて、言語力の高さと歩く速さに関連性が認められた。
研究共著者で同大学心理学・神経学助教授のRoee Holtzer氏は「歩行には多くの作業が要求される。脚を動かし、バランスを保たなければならない。戸外を歩く場合には、何かにぶつからないように周りを良く観察する必要がある。非常に複雑な仕事となる」と述べている。
加齢を研究する米ノースウェスタン大学(イリノイ州)医学助教授のDanys T. Lau氏は、特に高齢者は歩行が不安定で転倒しやすく、予期せぬけがにつながるという。転倒は股関節骨折の原因となり、介護施設や病院での長期加療を引き起こし、死につながることさえある。同氏は「今回の研究結果は、転倒リスクのある高齢者を特定する診断テストのデザインに新しい方法を提供するもの」としている。
Holtzer氏は「研究結果は、医師が認知力と歩行の関連性を認識し、物事を明瞭に考えられない患者には注意が必要なことを示している。また、歩行能力向上と転倒防止に、注意力の改善も含む認知力リハビリテーションがいかに重要であるかを示唆するものである」と述べている。