免疫系の“嵐”をよぶ鳥インフルエンザ
鳥インフルエンザでの致死率が高いのは、炎症性蛋白(たんぱく)のサイトカインやケモカインが過剰生産されるためという報告が、医学誌「Respiratory Research」11月11日オンライン版に掲載された。サイトカインやケモカインは、免疫系で情報伝達など重要な働きを担う物質である。
香港大学のMichael Chan博士らは、ヒト肺組織を鳥インフルエンザであるH5N1型ウイルスと普通のヒト・インフルエンザであるH1N1型ウイルスに曝露し、誘導される炎症性蛋白の量を比較した。
その結果、H5N1型感染では、気管支上皮細胞でのIP-10というケモカイン量が1mlあたり2,200pg (ピコグラム、1ピコグラムは1兆分の1グラム)に達したが、H1N1感染細胞では200pgだった。他のケモカインやサイトカインでも同様で、H5N1型で誘導された量はH1N1型による量よりはるかに多かった。
サイトカインやケモカイン活性の大幅上昇により、気道が刺激され、呼吸困難になる。また、鳥インフルエンザでの異常な重篤さの一因にもなり、生死に関わる肺炎と急性呼吸困難(ARD)を起こすという。
これまでにヒトでのH5N1型感染は世界で125例報告されており、うち64例が死亡している(※11月11日現在)。すべての症例は南アジアからで、鳥からヒトへの伝播である。しかし、もしウイルスがヒトからヒトへ伝播するものに変異すると、世界的に大流行すると懸念されている。
今回の結果は、鳥インフルエンザ患者でみられる症状にも一致するという。専門家の1人は、今回の研究は、H5N1がサイトカインの過剰誘導(嵐)をもたらすという過去の研究を証明し、この疾患のメカニズムを理解する助けになると述べている。また、免疫力が低下している人よりも、健康な人でサイトカインの生産を増加させる能力があることから、なぜ最も健康そうな人で症状が重くなるかも説明できるという。