痛みがなければヘルニアの手術は不要
ヘルニアの男性患者に痛みや不快感がみられない場合には手術の必要はないことが、米国の新しい研究で明らかにされた。米クレイトン大学(ネブラスカ州オマハ)外科教授Robert J. Fitzgibbons, Jr教授は、今回の結果が数百年の伝統的な考えを変えるものであるとし、「ヘルニアに対処しつつ生活できれば、完治させようと思う必要はない」と述べている。米国医師会誌「JAMA」1月18日号に掲載された。
ヘルニアとは、腸などの腹部内臓が一部筋肉壁を脱出してしまうものであり、筋肉の損傷に起因することが多い。内臓が脱出した部分が締め付けられると、血液供給が遮断される「嵌頓(かんとん)」という状態に陥る恐れがある。Fitzgibbons博士は「これまで、嵌頓になると壊疽(えそ)を引き起こす危険があるとして、ヘルニアは外科的に治療する必要があると考えられてきた」という。
今回Fitzgibbons博士らは、ヘルニアの中で最も発症頻度の高い、脚の付け根周辺に生じる鼠径(そけい)ヘルニアの男性患者を対象として、無症候性患者または症状がごく軽度の患者合計720例を対象に、外科的処置を実施するグループとしないグループとに無作為に割り付け、痛みや身体機能などの転帰を比較検討した。
その結果、症状がごくわずかであるかまったくみられなければ、外科的処置を何ら実施しなくても、2年後での痛みや不快感の程度は、手術を実施した患者とほぼ同じであることがわかった。また、日常生活に支障を来すほどの痛みが現れていた患者数は両群ともほぼ同じであった。
米イリノイ大学(シカゴ)外科教授で共同研究者のOlga Jonasson博士は、ヘルニアの手術は鼠径部の慢性の痛みなど、合併症を引き起こす恐れがある点を指摘し、「男性のヘルニア患者は症状が軽いことが多く、症状がみられるまで手術を受けなくても安全である」という。
米ワシントン大学外科教授のDavid R. Flum博士は、今回の結果を支持する見解を示したう上で、ヘルニアを来しても嵌頓ヘルニアに至るリスクはきわめて低く、予防的に手術を施行する理由はないとの見解を示している。