唾吐き検診で癌(がん)を発見
患者が診察室で唾を吐きかけても医師は気分を害さない時代がくるかもしれない。唾液で早期の口腔癌(がん)、乳癌などを検出する方法が、アナハイムで開催された米国癌学会(AACR)の年次集会で発表された。
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)歯学部およびジョンソン総合癌センターのDavid T. Wong博士のチームによる研究で、口腔癌患者32人、乳癌患者40人と健常対照群の唾液と血液中のmRNA(メッセンジャーRNA)を単離し、これを生物マーカーとして癌につながるパターンを検討した。mRNAはDNAの遺伝子コードのコピーで、このmRNAをもとにして細胞の別の場所で蛋白質が製造される。
唾液中には3,000種類のmRNAがみられるが、そのうちの4パターンが口腔癌に関与することが判明した。乳癌については特定のパターンを探索中で、血液中のmRNAにも検出の手掛かりはあるが、両方の癌検出には唾液のほうがよいという。非侵襲的体液である唾液を用いるこの方法で、10人中9人の口腔癌が検出できた。検査結果が得られるまでの時間は30分で、今後1年から1年半で口腔癌検出に実用化されるとWong博士は予測している。
生物マーカーは病気の「遺伝的指紋」の最たるものといわれ、「癌検出には通常DNA、蛋白質が用いられるが、mRNAに注目したのは斬新」と南カリフォルニア大学歯学部診断科学部門教授のPaul Denny博士は賞賛する。癌では診断は早期であればあるほどよく、この方法は早期診断に道を開くという。いずれ医師は患者にコップに唾を吐くよう指示し、それを検査室に回し、分子レベルの変化に基づき数多くの疾患を探す、というのがルーチンになるだろうとDenny博士は予測している。
しかし米国癌協会(ACS)副主任医務官 Len Lichtenfeld博士は「試料採取が簡単で、期待できる方法」と賞賛しながらも、広範は実用化までにはさらなる研究が必要と述べている。