低インシュリンダイエットの真相
最近、ちまたで流行の低インシュリンダイエット。「カロリー計算なし」「運動なし」「リバウンドなし」と大変魅力的なうたい文句で紹介される一方、批判的な意見もちらほら出始めている。ここでは低インシュリンダイエットの真の姿を科学的に探ってみる。
低インシュリンダイエットの産みの親である、米国のロバート・アトキンス博士。彼の「アトキンスダイエット」を低インシュリンダイエットとして日本に紹介したのが、HSL健康科学研究所の永田孝行所長である。
雑誌やテレビなどで紹介されている低インシュリンダイエットを簡単にまとめると、下記の5つになります。
1.体脂肪は血液中の余分な糖がインシュリンの働きで脂肪細胞に蓄えられたものだから、その働きを抑えれば体脂肪は増えない。
2.血糖の上昇スピードが速い食品はインシュリンを多量に分泌されるので、血糖値を上昇されるスピードを数値化した指数(グリセミック・インデックス、GI値)に着目し、GI値の高い糖やデンプンを避ける。
3.GI値の低い脂肪やたんぱく質は太る原因ではないため、いくら食べてもよい。
4.インシュリンを出さないような食事をすれば、エネルギー収支(摂取カロリーのバランス)を考える必要はない。
5.運動は必要ない。
検証
“低インシュリンダイエットの間違い”
残念ながら、上に述べたような“単純な低インシュリンダイエット”は間違っている。“単純な”と述べたのは、実は永田氏のオリジナルの説には科学的に正しい部分も多く、きちんと理解した上で生活習慣を改善すればダイエットに成功する人もあると思われるからだ。しかし、“単純な低インシュリンダイエット”にはいくつかの誤りがある。特に3の脂肪やたんぱく質が太る原因にならないとするのは、事実に反する。どんなエネルギー源であれ、体が必要とする以上の量を摂取すれば、余った分は必ず肝臓や体脂肪に蓄えられるからだ。そもそも脂肪やたんぱく質はいくら摂ってもよいとか、エネルギー収支を考えなくてよいというのは物理法則に反する。余分に食べたエネルギーが消費も蓄えもされないとしたら、そのエネルギーは一体どこへ消えるのだろう?脂肪やたんぱく質の摂取カロリーの合計が減るわけだからやせる可能性はある。ただし、この場合は単なる食事制限のダイエットであって“低インシュリンダイエット”の効果ではない。
インシュリンは悪者か?
体脂肪とは、食物から摂取された余剰のカロリーが脂肪細胞内に蓄積されたもので、必要なときには使えるよう蓄えられている。これを調節するのがインシュリンだ。たいていの“インシュリンダイエット法”では、「インシュリンは血糖値を下げるホルモンで、余分な血糖値を体脂肪に変える」と説明され、悪者扱いされている。しかし生物学的に考えると、血糖を必要とする臓器に分配し、さらに余ったエネルギーを必要なときに使えるようとっておくという“やりくり上手”なのである。
運動は必要不可欠
インシュリンは臓器が糖を吸収するのを促す。したがって栄養が不足するときはもちろん、人が運動するときもインシュリンは分泌を抑制される。インシュリンがあると、筋肉に糖が分配されないからだ。そのため毎日、運動を続けていると適応が起こり、インシュリン分泌量は減る。余分なエネルギーを消費させ、インシュリン分泌量を減らすためにも、運動は不可欠である。
体重が落ちる理由
体内で糖質が不足すると、脳への血糖供給を維持するため、肝臓に蓄えられているグリコーゲンが分解されて糖をつくる。このとき大量の水が放出されるので、一時的に体重を減らすのに有効だが、本当に体脂肪が減ったことにはならない。
GI値よりも肝心なのは食べ合わせ
このダイエット法の要であるGI値は、一種類の食品を食べて測定された数字である。もちろん通常の食事ではさまざまな食品を同時に食べるので、相乗効果が起こる。特に注意が必要なのは脂肪と糖質を同時に摂るとき。それぞれ単独で摂取するよりインシュリン分泌が刺激され、体脂肪に蓄えられやすい。和菓子よりも、生クリームやバターを使った洋菓子が太りやすいのはそのためだ。
結論
正しい低インシュリンダイエット
本来の低インシュリンダイエット説には、充分に説明されていない大切な事柄がいくつかある。まず、人の生理は個人差が大きく、同じように食事を摂り、運動しても、エネルギー収支は必ずしも同じでないばかりか、同じ人でも季節や年齢により異なると述べられている。これが単純なカロリー計算を否定する根拠となっている。また「食事誘導性体熱産生(DIT)」も重要である。DITは食後、消化吸収の際に発生する熱で、食事をすると体が温かくなったり汗をかいたりすることでも実感できる。栄養素の種類によってDITの量は異なり、たんぱく質だけ摂取した場合は基礎代謝の約30%の熱が発生するが、脂肪のみではたった4%。脂肪の多い食事は同じカロリーでも“無駄なく身になる”わけだ。糖質も脂肪と同程度である。運動による消費カロリーは運動時間で計算されることが多いが、運動後の数時間も安静にするよりはずっと代謝が高まる。だから一週間に一度だけ運動するより、合計時間は同じでも数日に分けて行ったほうがより。そして肥満や運動不足はインシュリンの効き目を悪くする。インシュリンの働きが悪いと、血糖がだぶついて糖尿病になったり、血管の内側にコレステロールがこびりついて動脈硬化になってしまう。こうしてみると、正しい低インシュリンダイエットは決して簡単でもないかわりに、非科学的でもないといえそうだ。
ポイント
1.脂肪の摂取を控え、GI値やDITを目安に適度な量の食品を食べる。
2.一回の食事の摂取カロリーを減らし、回数を増やす。食事を普通にとった上、続けてデザートを食べると非常に血糖を上げやすい。間食は食事と間隔をあけ、カロリーと種類には気をつける。
3.運動習慣と組み合わせる。