抗うつ薬が心臓病患者の死亡リスクを高める
冠動脈疾患患者が抗うつ薬を服用した場合に死亡リスクが高くなるという、これまでの研究に反する研究結果が、デンバーで開かれた米国精神身体医学会(APS)で発表された。
米デューク大学(ノースカロライナ州)が行った研究では、心血管造影を受けた患者921人のデータを分析し、冠動脈の閉塞状態を検討。被験者の約20%が抗うつ薬を服用しており、うち66%が選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)服用者であった。抗うつ薬を服用していない患者は、一般的に用いられているうつ病評価尺度での評価が7で、服用している患者は平均で11だった。同尺度では10以上の評価でうつ病と診断される。
検討の結果、さまざまな因子の調整後も、抗うつ薬の服用患者の死亡率が、非服用患者より55%高いことが明らかになった。検討期間の3年間の死亡率は、服用患者では21.4%、非服用患者では12.5%であった。また、SSRIとその他の抗うつ薬との間に統計的な有意差は認められなかった。同大学医学心理学のJames Blumenthal教授は「予期しなかった知見だが、理由は説明できない。今回の検討結果から、抗うつ薬が死亡原因と結論付けるのはまだ適切ではない」と述べる。
過去の研究では、うつ病の心疾患患者では死亡リスクが高く、その原因が、うつ病により血小板の凝集傾向が高まることにあるとされ、多くの医師がリスクをなくするために抗うつ薬を使用している。また、最近の研究では、抗うつ薬が、心臓発作(心筋梗塞)既往患者の死亡および再発リスクを半減したことが明らかになっている。
今回の研究の限界として、無作為化試験ではないことが挙げられている。米国心臓協会(AHA)スポークスウーマンのNieca Goldberg博士は「抗うつ薬は安全という我々の認識とは異なる研究結果だ。うつ病を治療してはいけないということを意味していないが、なぜこのような結果になったか理解する必要がある」と述べている。
デューク大学では今後、運動やSSRIが冠動脈疾患における心拍数、血小板凝集能などのバイオマーカーに影響を与えるか否かを検討するための、無作為化試験の実施を予定している。