尚早な新薬の採用は危険
米国人の医師の多くが、データが不完全で未確認な点も多い新しい治療法を時期尚早に採用していることが、米テキサス大学MDアンダーソン癌(がん)センターのSharon Giordano博士らの研究によって明らかになり、医学誌「Journal of the National Cancer Institute」の3月15日号に掲載された。
Giordano博士らは、1998年の米国癌治療学会(ASCO)年次集会でタキサン系乳癌治療薬タキソール(一般名:パクリタキセル)に関する予備研究の結果が発表された後の、乳癌治療の変化を追跡した。その結果、集会後すぐにタキサン類の薬剤が補助療法として処方され始めたことがわかった。さらに、当初はリンパ節陽性の乳癌患者に限ってタキソール治療が採用されていたが、徐々にリンパ節侵襲のない症例にまで利用が拡大されていたという。
結果的には、2003年に発表された長期データによってタキソールが実際にリンパ節陽性乳癌患者に効果をもたらすことが示されたが、よい結果が出た例ばかりではない。ホルモン補充療法(HRT)や、Vioxx(一般名:rofecoxib)、Bextra (一般名:valdecoxib)のような現在は販売が禁じられているCox-2阻害薬、肺癌治療薬のイレッサ(一般名:ゲフィチニブ)のように、医師らが初期データに基づいて用いたものが、後に治療効果よりも害の方が大きいらしいと判明した例もある(編集部注=日本国内未承認薬は英文表記)。
英Dartmouthダートマス医科大学医学部準教授のLisa Schwartz博士は、医学会で発表される報告が医学誌に掲載されるものと違い、事前に審査を受ける必要がない点を指摘している。予備的試験の結果が製薬会社の株価上昇にもつながることから、利点ばかりが誇張されていることも多い。新薬に飛びつく前に、一歩下がって懐疑的な目で見ることも必要だという。
Schwartz氏はさらに、薬剤に関しては、「新しい」と「改良された」は同義ではないと助言している。「最新の薬が最も優れているという思い込みがあるが、必ずしもそうとは限らない。科学的に裏付けのある既存の選択肢があるなら、そちらを採用する方がよい場合が多い」という。