鍼(はり)療法の有用性を裏付ける科学的根拠
中国の伝統的な鍼(はり)療法では、足指と眼は同じ経絡(けいらく)でつながっているため、足の小指に鍼を刺せば眼症状の回復に有用であると考えられるが、これまで西洋医学界ではこうした考えに同意が得られていなかった。
今回、西洋医学でも十分な経験を積んできた有資格の鍼師で、米メリーランド大学統合医学センター(ボルチモア)准教授のLixing Lao博士は、脳の活動を画像化するファンクショナルMRI(fMRI)を用いて、足指に鍼療法を行うことにより脳内の視覚皮質の活性が実際に刺激されることを明らかにした。同博士は、この所見は、伝統技術の有効性を現代科学が証明する多くの実例のわずか1つに過ぎないという。
米国での鍼療法に対するこうした変化は、専門家による包括的な文献の見直しに基づいて米国立衛生研究所(NIH)が一定の合意に至った1997年以来大きなうねりを見せている。合意では、鍼療法が医学療法との併用療法や代替療法として、広範囲にわたる症状緩和に妥当な治療法であるとの見解が示された。
鍼療法の対象となる症状として、喘息、手根管症候群、線維筋痛、頭痛、腰痛、月経痛、顔面筋疼痛、変形性関節症、テニス肘が挙げられるほか、脳卒中のリハビリテーションにも有用であるとされた。Lao博士は、これをきっかけに、患者のみならず医師もが鍼療法に注目することになったという。
鍼療法の重要な作用機序として、次の4つの点が挙げられる。
・鎮痛作用を有するエンドルフィンを放出させる。
・血行を改善する。
・抗炎症効果がある。
・心拍数を改善する。
鍼療法によって必ずしも、西洋医学の薬物療法と同程度の疼痛や症状の緩和が得られるわけではないが、副作用がないため、長期にわたって安全に実施することができる。
Lao博士は、薬物療法と鍼療法の大きな差はその作用機序にあり、「鍼療法は症状に対処するのみならず、基礎的な原因にも対処する療法である」と説明する。今後、「鍼療法が支障を来している身体機能に対する反応を高める」ことを示す証拠がさらに得られることが期待される。