担当医の引き継ぎが十分に配慮されていない
入院治療中に担当の医師が変更になることは多い。しかしその際、医師同士の引き継ぎ連絡が不十分であることが多く、治療での誤りが生じる原因となっていることが明らかにされた。米インディアナ大学医学部(インディアナポリス)のRichard M. Frankel氏は、入院患者に対する治療での誤りのうち、「引き継ぎの失敗によるものが75%にも上ることは大きな問題である」と指摘する。医学誌「Academic Medicine」12月号に掲載された。
引き継ぎ後、引き継いだ医師は、患者の病歴や症状、投薬に関して引き継ぎを行った医師と同じ情報を持つ状態になっているはずである。Frankel氏によれば、こうした情報伝達が1日のうちに数回行われるため、手抜かりや誤りが生じる割合が高くなるという。また、引き継ぎ方法がコンピュータや手書きの書類で行うなど施設により異なっており、「複雑な作業であるにもかかわらず、その手順は標準化されていない」点を指摘する。
Frankel氏らは同大病院の引き継ぎ業務を見直し、別の施設におけるシステムのデータと検討することにより、情報伝達が不十分となる主な理由を明らかにした。その結果、作業環境が騒々しく会話がスムーズに進まない、医学界が階層的な社会であること、医師間の言葉の壁、面と向かった会話が少ない、時間がないなどの点が明らかにされた。
医学部では、引き継ぎに関する医師の指導の重要性が軽視される傾向にある。2004年にFrankel氏が125の医学部を対象に実施した調査では、患者の引き継ぎの方法を指導していたのはわずか8%であった。
Frankel氏らは、医学部で引き継ぎの方法を指導するほか、「引き継ぎ手順の確立」の必要性を訴えている。さらに、データを正確に伝達するためにコンピュータシステムの利用を勧めている。
医療安全に関する評論家のMatthew Grissinger氏は、今回報告された推奨事項は、昨年(2004年)に米国医療施設合同認定委員会(JCAHO)が発表した患者の安全に関する国際的な目標の内容に近いものであるとし、個々の医師ではなく、医療施設として取り組むべき問題であるとの見解を示している。